バイオフィルムが関係するトラブルには深刻な被害を及ぼすものが多いが、個々の問題に適切に対応できる技術は皆無である。本研究では、究極の低環境負荷型材料であるバブルの疎水性相互作用を利用して、簡便かつ安価な方法により装置内壁へのバイオフィルム形成の抑制を試みる。さらに、装置壁面のナノ粒子コーティングによる微生物の付着抑制、除去困難な付着微生物への薬剤を封入した生分解性キャリア粒子の選択的送達による付着微生物のピンポイント殺菌についても検討することを目的とする。2021年度の研究では、微生物の生死がマイクロバブル(MB)を用いた界面付着微生物の除去効率に及ぼすについて検討を行い、以下の結論を得た。 MBを用いてガラス基板に付着した種々の微生物の除去実験を行った。その結果、MB洗浄後に基板上に残留している微生物を生死判別すると、そのほとんどが死細胞であることが分かった。生細胞と死細胞の除去効率の違いについて検討するために、原子間力顕微鏡を用いて菌体-ガラス間、菌体-MBに働く付着力の直接測定を行った。その結果、菌体-ガラス間の付着力は、死細胞よりも生細胞の方が大きくなることが分かった。これは、細胞膜が損傷した死菌体から流出したバイオポリマーによるものと推察される。一方、菌体-MB間の付着力は、生細胞よりも死細胞の方が大きくなることが分かった。微生物層を形成して水の接触角を測定したところ、生菌体の接触角が死菌体よりも大きかったことから、相対的に疎水性になったことが要因の一つとして推察される。以上より、MB洗浄により生菌体はほぼ除去できることから、生菌体の増殖によるバイオフィルム化に効果的であることが示唆された。死菌体は、MB分散媒を酸性条件にすると、微生物が負帯電、MBが正帯電となり、静電引力により菌体-MB間の付着力が増加して除去効率が向上することも分かった。
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