研究課題/領域番号 |
19H02511
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
前田 和彦 東京工業大学, 理学院, 准教授 (40549234)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 人工光合成 / 光触媒 / 光増感剤 / ナノ粒子 / ナノシート |
研究実績の概要 |
表面に担持された金属酸化物ナノ粒子と、担体であるワイドギャップ半導体との電子的な相互作用によって駆動する水の酸化光触媒の新たな探索のため、第一遷移金属酸化物種MOx(M = Mn、Ni、Fe)をアナタース型TiO2上に担持した粉末光触媒を調製した。本研究の最終目的は酸化物ナノシートを活用して反応場分離型光触媒系を構築することであるが、今回は試料調製、比較検討の点で有利なアナタース型TiO2微粒子を使用した。全てのMOx/TiO2において広域可視光領域に吸収帯を有することが確認された。一方、硝酸銀を電子アクセプターとして用いた可視光下における水の酸化反応試験を行った結果、MnおよびFeではまったく酸素生成反応が進行しなかった。NiOx/TiO2のみ酸素発生が確認されたものの、その活性はCoの場合に比べて1/6以下にとどまった。レドックス光増感剤を用いたMOx触媒上での光化学的な酸素生成反応の結果、Coが水に対して最も高い酸化力を有していることが確認され、次いでNi、Mn、Feの順に高くなっていた。したがって、MOx/TiO2光触媒では、MOxが有する水の酸化触媒能が光触媒作用に影響を与えていることが明らかとなった。この成果はJ. Phys. Chem. C誌に発表した。 2019年度の研究実施により、水の酸化系と連結可能な堅牢な光増感剤にはなり得ないと考えていたRu錯体が、ニオブ酸ナノシートと組み合わせることで予想に反して高性能を示すことも発見した。この系は、HCa2Nb3O10ナノシートの積層空間にPtナノ粒子を閉じ込めて水素生成反応場とし、そこへRu錯体を吸着させたものである。さらに酸素生成反応をWO3系光触媒で行い、両光触媒間の電子移動をヨウ素レドックスによって実現し、水の水素と酸素への完全分解を可能としている。この成果はJ. Am. Chem. Soc.誌に発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
遷移金属酸化物ナノ粒子を光増感型酸素生成触媒とする研究を当初計画通りに進めることができた点に加えて、Ru錯体/ニオブ酸ナノシートの複合系で予想外の結果を見出した点を鑑み、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
酸化物ナノシートは、光励起状態のRu錯体から電子を受け取り、還元反応場の構築を担う。したがって、そのサイズや化学組成が最終的な光触媒活性に大きな影響を与えることが予想される。 今後は、我々がこれまでに開発した伝導帯下端位置を精密制御したナノシート(HCa2-xSrxNb3-yTayO10)を半導体部位として用い、未解明となっている半導体の伝導帯下端位置とZスキーム型水分解光触媒活性との相関を明らかとする。この材料はHCa2Nb3O10が母組成となり、Sr置換により伝導帯下端は正側に、Ta置換により負側に変化することを過去の研究で見出している。伝導帯下端が正側ほど励起状態のRu錯体からの電子移動は起こりやすいが、水の還元反応の駆動力は逆に低下する。すなわちナノシートの組成と活性にはトレードオフの関係があると予想されるため、本テーマでは最高活性を与えるナノシートの組成を明らかにする。ナノシートの起源となる層状ニオブ酸の合成については、昨年度の知見を元にフラックス法を中心に検討する。最適化したRu錯体増感ナノシート光触媒を酸素生成系光触媒と組み合わせることで、水の可視光完全分解反応を行う。これにより、従来のものよりも高い活性を示す新規光触媒系を構築する。
|