研究課題/領域番号 |
19H02520
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山田 真澄 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30546784)
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研究分担者 |
関 実 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (80206622)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロ流体デバイス / リキッドバイオプシー |
研究実績の概要 |
本研究の2年度目に当たる2020年度は,初年度に開発した多孔性材料の作製法について,再現性および作製効率の向上を目指しつつ,実際のセパレーターの開発へと応用を進めた。より具体的には,初年度に開発した流体デバイスの処理量向上のための並列化流路システムを設計し,さらに多孔性部の抵抗の評価を行いながら,特に血液成分の分離を目指した。基材の作製については,まずこれまでのソルトリーチングによるシリコーン樹脂の加工に関して,犠牲材料となるNaCl粒子の粒径や添加量をコントロールすることで,その連通性を制御できることを確認した。加えて,溶解性の球形ポリマー微粒子を犠牲材料として用いる新規プロセスを開発した。より具体的には,直径30ミクロン程度のPMMA微粒子を利用したところ,粒子径の5分の1程度の大きさの連通孔を形成した基材の作製が可能であることが確認された。そして,作製した基材を組み込んで流路形状や細孔径の異なる数種類のデバイスを作製し,主に標準微粒子を用いた検討を行うことで,その分離精度の評価を行った。さらに,ヒト血液を用いたバイオ分離への応用として,白血球の選択的濃縮を実証した。特に並列化流路を用いることで,毎分1 mL程度の処理量を達成することができ,分離の精度と処理量を同時に向上できることが示された。さらに,血液成分の分離のみならず,マルチスケール流体デバイスを用いた細胞の溶液交換,薄層並列化流路を用いた循環がん細胞の捕捉,などのシステムを開発することができ,特に診断医療における有用性を実証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響で2020年の4~6月頃はほとんど研究が進捗しなかったため,一部の経費を2021年度に繰り越した。当初の目的であるエクソソームの分離精製までの適用はできなかったが,マルチスケール流体セパレーターの作製手法をある程度確立でき,さらに血液成分の分離に適用することができた。また,細胞の溶液交換手法やがん細胞の捕捉システムなどの副次的な研究成果も挙げることができたため,概ね順調に研究が進捗したものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の3年度目に当たる2021年度は,これまでに開発した「多孔性材料を統合したマイクロ流体デバイス」について,その作製法のさらなる洗練化を行いつつ,特にバイオ・医療分野において有用なターゲットの分離への適用を目指す。具体的には,特にエクソソームなどのサイズの小さな対象を分離するために,より微小な連通孔を形成した多孔性マトリックスを組み込む新規プロセスを開発する。犠牲材料となるサブミクロンサイズの単分散微粒子を懸濁重合等によって合成した上で,それを利用して形成した多孔性基材を組み込んだマルチスケール流体デバイスを作製し,その分離性能を評価する。さらに,連通孔を形成した薄膜状の基材を,流路構造を形成した基板に挟み込む手法などの新規プロセスを開発し,細胞や生体粒子の捕捉を実現するデバイスの提案を行う。そしてこれらの応用として,まずは血中循環がん細胞(CTC)の選択的捕捉のさらなる効率化を目標とした実験を継続するほか,主に細胞培養液を用いた血液成分の分離を行い,可能であればエクソソームの分離挙動評価へと発展させる。CTCについては,免疫蛍光染色による検出を行うほか,様々な種類のがん細胞に対する適応性を検証するほか,エクソソームについては粒子トラッキングなどを用いた分離の評価を行う。これらに加えて,本研究で提案するデバイス作製技術を応用させた,細胞の溶液交換,細胞の捕捉、細胞内分子の可視化,などについても,そのさらなる処理量や精度の向上へと発展させる予定である。特にリキッドバイオプシーへの展開を目指し,企業研究者とも連携した上で,新規分離・検出装置の実用化を図りたい。
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