研究課題
シアノバクテリアは、アシルACP還元酵素(AAR)とアルデヒド脱ホルミル化オキシゲナーゼ(ADO)という2つの酵素を用い、光合成で軽油相当のアルカンを合成できることから、地球温暖化の防止に有効な再生可能バイオエネルギーの生産源として注目されている。しかし両酵素の活性は低いため、高活性化が必要である。そこで本研究では、3通りの方法でこれらの酵素活性の向上を目指している。2021年度は次の研究を行った。(1) 進化分子工学実験: 前年度までに得られたAARの高活性化変異体について、詳細な特徴づけを行った。特に、AARによって生成されたアルデヒドをアルコールに変換することで酵素活性の正確な定量を行った。その結果、野生型AARよりも大幅に活性が向上したAAR変異体や、炭素数の少ないアルデヒドを選択的に合成するAAR変異体が見出された。(2) 網羅的変異解析: AARについての様々なアミノ酸置換変異体のデータベースを構築するための準備を進めた。(3) 理論的設計: 最先端のタンパク質設計用ソフトウェアRosettaを用いてADO単独での酵素活性を向上しうる変異体を理論的に設計した。それらの変異体の活性測定は現在進行中である。また、ADOの分子動力学シミュレーションを行うことにより、ADOの機能発現機構を解明するうえでの重要な手がかりが得られた。(4) 上記の他に、次の研究成果も得た。①X線溶液散乱法やNMR分光法などを用いてタンパク質の構造ダイナミクスの解析を行った。②Rosettaソフトウェアを用いることにより、アレルギーやがんなどに関わるタンパク質間相互作用を阻害しうるタンパク質等の設計を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、AARとADOの高活性化に向けて3通りのアプローチで取り組んでいる。いずれのアプローチにおいても着実な進展がみられている。1つ目のアプローチである進化分子工学実験では、野生型よりも大幅に高活性化したAAR変異体が得られた。また、3つ目のアプローチでは、ADO単独での活性を向上させるための理論的な研究が順調に進行中である。
今後も3通りのアプローチにより、当初の予定通りに研究を進めていく予定である。具体的には、(1) 進化分子工学実験では、ADOの高活性化変異体の設計を進める。(2) 網羅的変異解析では、AARのさまざまなアミノ酸置換変異体のデータベースに基づき、高活性化した変異を多重に組み合わせることで、さらに高活性化したAAR変異体を創出する。(3) 理論的設計では、最先端のタンパク質設計用ソフトウェアRosettaを用いて、ADOとAAR単独での高活性化変異体の設計を進めていく。
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