本研究では増殖と生産を独立して制御可能な微生物を構築し炭素収率を向上させることを目指す。解糖系で得られるホスホエノールピルビン酸(PEP)やその下流のアセチルCoAは菌体の維持増殖に消費されてしまい、それらを前駆体として作られる有用化合物の生産性は低下する。菌体を増殖させた後に、代謝を生産フェーズに切り替えるスイッチの研究例はいくつか報告があるが、その多くはチューニングが難しい。本研究では、増殖と物質生産が分離独立した微生物の構築を行う。解糖系とTCA回路を切り離し、代わりにDahms pathwayを導入する。この経路は解糖系を通らずにピルビン酸およびグリオキシル酸を生産し微生物を増殖させることができる。本年度はこのベースとなる菌株の構築およびその特性を解析した。経路を遮断していくにつれ微生物の増殖が低くなることが予想されたが、予想と反していくつかの菌株においては増殖が向上するものも見られた。代謝経路の遮断により他の経路の活性がが行われたと思われる。最終的には、解糖系とTCAサイクルを完全に分離した菌株の構築に成功し、続いてキシロース資化経路を導入した。キシロース資化経路および炭素源にグルコースおよびキシロースの両方が存在する時にのみ増殖を示したことから、目的どおりの菌株を構築することに成功した。さらに、13Cラベリングを用いた解析からグルコースおよびキシロースの炭素が目的どおりの経路に流れていることが示された。今後はこの菌株を用いて物質生産を進めていく。
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