研究課題/領域番号 |
19H02529
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
津田 栄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 上級主任研究員 (70211381)
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研究分担者 |
大山 恭史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (80356675)
近藤 英昌 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (80357045)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 不凍タンパク質 / Antifreeze Protein / 準ガラス化状態 / 微細氷結晶 / 過冷却 / 氷結晶結合 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、細胞質内を微細氷結晶で埋め尽くした「準ガラス化」状態にすることによって零℃以下で保存中の細胞の生命力を保ち、その生存時間の大幅延長を達成することである。不凍タンパク質(AFP)にはそうした機能があると考えられる為、既にある魚類IーIII型AFPに加え、R2年度は担子菌類(Typhula Ishikariensis)、子嚢菌類(Antarctomyces psychrotropicus)、トビムシ(Granisotoma rainieri)、オオクワガタ(Dorcus hopei binodulosus)から新たなAFPを単離精製し、それらの遺伝子組換え体を作製した。また全てのAFP試料について、遺伝子構造、アミノ酸配列、生化学・物理化学的性質等を分子レベルで詳細に解析した。更に、DhbAFPと相同なゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来AFP(TmAFP)の大量生産法も確立した。膜透過ペプチドとして知られる8残基のアルギニンペプチドをTisAFPに連結したR8-TisAFPも作製した。これらのAFP試料のうち、担子菌類由来のAFP(TisAFP)とTmAFPが特に強く水の準ガラス化状態を安定化することが明らかになった。AFPの細胞内導入には膜透過ペプチドよりも電気穿孔法(エレクトロポレーション)が容易かつ有効であることが明らかになった。ヒト由来アポリポプロテインA-Iを膜足場蛋白質として使ったDMPCナノディスクも作製し、透過型電子顕微鏡によりその構造体形成を確認した。実験の結果、TisAFPとTmAFPが水の準ガラス化状態を安定化する最適温度はマイナス5℃前後と見積もられた。AFPを添加した市販の細胞保存液を用いることで、モデル細胞であるラット膵島細胞株RIN-5Fをマイナス5℃前後で保存する予備的実験を開始するに到った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、細胞質内を微細氷結晶で埋め尽くした「準ガラス化」状態にすることによって零℃以下で保存中の細胞の生命力を保ち、その生存時間の大幅延長を達成することである。そのためには、どの種類のAFPが良いのかを明らかにした上で、そのAFPの大量生産法や細胞内導入法を明らかにし、更にAFPが「準ガラス化状態」を安定して維持できる温度を明らかにする必要がある。R2年度はそれらの実験をすべて実施し、新たに発見したオオクワガタ由来AFP等を用いてマイナス5℃の「準ガラス化」状態を実験室内に再現することに成功した。8残基のアルギニンから成る膜透過ペプチドを付加したAFPの作製、菌類AFPが準ガラス化状態を安定化するメカニズムの解明、人工脂質二重膜ナノディスクの作製にも成功しており、本研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、細胞質内を微細氷結晶で埋め尽くした「準ガラス化」状態にすることによって零℃以下で保存中の細胞の生命力を保ち、その生存時間の大幅延長を達成することである。今後は既にある魚類IーIII型AFPと菌類由来AFPならびに昆虫由来AFPを低温保存に有効とされる低分子物質と併用することで、マイナス5℃前後で水の「準ガラス化」状態を安定化させる技術について検討する。グリセロール、トレハロース、カリウム、ナトリウム、リン酸、アミノ酸、ペプチドなどが低分子物質の例として挙げられる。また、細胞質内を「準ガラス化」状態にするために用いる電気穿孔法(エレクトロポレーション)に関して、パルス強度、パルス幅、セル長、細胞濃度、温度などの実験条件の最適化を急ぐ。
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