研究課題/領域番号 |
19H02530
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
杉浦 慎治 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 上級主任研究員 (10399496)
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研究分担者 |
松阪 諭 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00372665)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生体模倣システム / Organ-on-a-chip / マイクロフルイディクス / 血管 / 癌 |
研究実績の概要 |
微小血管は軟組織であるため微小血管組織を形成するためには足場が必要である。本研究では、ハイドロゲルを足場とした微小血管組織を形成するために、圧力駆動型循環培養システムを用いて微小血管組織を培養するために、マイクロ流体デバイス上にハイドロゲルを導入するチャンバーを設け、ハイドロゲル内に形成した微小血管組織に対して培養液を循環可能な培養モジュールを有するマイクロ流体デバイスを製作した。マイクロ流体デバイスの製作は当初の予定通り、フォトリソグラフィーとレプリカモールディング法を用いて行った。製作したマイクロ流体デバイスのハイドロゲルチャンバー内にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECS)をフィブリンゲルに包埋する形で導入して培養した。圧力駆動による灌流培養を行ったところ、血管の伸長と拡大が確認され、細胞も培地の流れに沿って配向する様子が確認された。圧力駆動の循環培養は研究代表者の杉浦が過去の研究において開発してきたものであるが、これを微小血管の培養に適用した例はなく、ユニークな研究が展開できつつある。他の研究グループが行っているような静置培養等と比較して血管のバリア能等の機能が異なることを示していくことができれば、癌と血管の相互作用を評価する有用な手法となると期待される。まだ学会発表、論文発表には至っていないが、マイクロ流体デバイスの構造について検討する中で特許性のある構造を発案しており、現在特許出願準備中である。特許出願後、速やかに学会発表や論文発表を中心とした成果発表を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、ハイドロゲルを足場とした微小血管組織を形成するために、圧力駆動型循環培養システムを用いて微小血管組織を培養するために、マイクロ流体デバイス上にハイドロゲルを導入するチャンバーを設け、ハイドロゲル内に形成した微小血管組織に対して培養液を循環可能な培養モジュールを有するマイクロ流体デバイスを製作した。マイクロ流体デバイスの製作は当初の予定通り、フォトリソグラフィーとレプリカモールディング法を用いて行った。製作したマイクロ流体デバイスのハイドロゲルチャンバー内にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECS)をフィブリンゲルに包埋する形で導入して培養した。血管形成の過程を観察するため、HUVECを事前にCellTracker (Invitrogen) で蛍光染色した。圧力駆動による還流培養を行ったところ、血管の伸長と拡大が確認され、細胞も培地の流れに沿って配向する様子が確認された。5日目には、血管の拡大が更に進行し、3日目よりも強い細胞の配向性が見られた。7日目には血管間のゲル部分が殆ど観察できないほどHUVECが増殖し、細胞の配向性も失われた。また、HUVECの血管形成に対する線維芽細胞および間葉系幹細胞との共培養効果を検討したところ、これらの細胞と共培養することで血管形成が促進されることが確認されたが、一方、細胞増殖による血管の閉塞が起こることも確認された。また、フィブリンゲルを導入する際や培地を導入する際の気泡の混入なども問題となり得ることが判明し、今後、対策を検討していく必要が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き圧力駆動型循環培養システムを用い、ハイドロゲルを足場として微小血管組織を構築・培養する方法の検討を進める。この際に、作製したマイクロ流体デバイスについて、ハイドロゲル導入から培養液の循環に至るまでのプロセスを行いやすくするデバイスの構造検討を行う。また、血管を構成する細胞種の組成と培養液循環条件の影響について検討する。細胞種については前年度に引き続き、線維芽細胞や間葉系幹細胞との共培養を検討するが、細胞の混合比を検討するととともに、線維芽細胞や間葉系幹細胞の増殖を抑える処置をして共培養を行うことも検討する予定としたい。培養液の循環条件に関しては、培養液を静置させた状態、往復させた場合、および循環させた場合とで、血管形成、安定性、およびバリア能といった挙動を比較する。また、培養液を循環させる際の圧力を変化させた場合の影響について検討する。マイクロ流体デバイスは前年度に引き続き、フォトリソグラフィーとレプリカモールディング法を用いてマイクロ流体デバイスを加工する。作製した微小血管組織について、血管組織を透過する培養液の流量と形態を経時的に追跡する。所定のタイミングでLive/Deadアッセイを行い、三次元組織全体の細胞の生存率を評価する。血管壁の透過性を分子量の異なる蛍光標識デキストランを添加した培地を循環させ、透過した蛍光量にて観察を行い、血管組織のバリア能を評価する。
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