研究課題/領域番号 |
19H02531
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 幸治 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (20444101)
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研究分担者 |
川野 竜司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90401702)
岩槻 健 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (50332375)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 匂いセンサー / 嗅覚 / 生体機能利用 / 嗅粘液 / 電気化学 / 味覚 |
研究実績の概要 |
2020年度ではまず、細胞外物質による匂い応答の増強効果について、哺乳類の嗅覚受容体を用いて検討した。その結果、応答増強効果は認められなかったが、その原因が細胞外物質精製時に生じる夾雑物であることがわかった。そこで限外濾過により夾雑物の除去を実施した。さらに酵素処理により細胞外物質を断片化し、匂い応答に関わる活性部位を検討した。また前年度見出した嗅覚受容体の新規非嗅覚性リガンドについて、様々な嗅覚受容体で活性を測定するために、安定的に嗅覚受容体を発現する細胞株を作製し、この細胞株で嗅覚受容体の応答性が上昇していることを確認した。 本研究課題でこれまで開発した、培養細胞に気体状匂い物質を投与する装置はすべて蛍光顕微鏡上での応答測定を意図しているため、測定できるサンプル数に制限があった。そこでスループット性を向上させるため、マイクロウェルプレートとプレートリーダーを利用した気相匂い刺激装置の開発に着手し、試作品を製作、実際に気相匂い刺激が実現できることを確認した。 インビトロの電気計測では、匂い分子としてバニリン及びその誘導体を複数種計測した。その結果、細胞外物質に有無により酸化還元電流の増大が見られ、また分子の種類によってその効果の有無も観測できた。 さらに哺乳類生体上皮のモデルとして、サルの消化管オルガノイドを導入し、in vitroにおいて化学物質の応答取得のためのプラットフォーム構築を行なった。現在までに、免疫組織化学染色によりホルモンや神経伝達物質を産生する細胞を確認することに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の研究課題では、哺乳類嗅覚受容体に対して細胞外物質による匂い応答増強を検討することが重要項目であった。しかし予想に反し、夾雑物が嗅覚応答を抑制していることが明らかになったため、細胞外物質の純度を上げる精製作業が必要となった。しかし感染症拡大に伴い、精製作業に必要な資材やマイクロウェルプレートなどが国際的に不足し、研究が実施できなくなったため、細胞外物質の機能解析に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はこれまで、昆虫嗅覚受容体を中心に匂いセンサー開発に関わる基盤技術開発に取り組んできた。昨年度より哺乳類嗅覚受容体についても着手し、この受容体を用いることで、匂いセンサーが感知する物質の多様性が大幅に向上することが見込めるとともに、ヒトの匂い知覚を可視化するなど、社会実装で様々に応用展開できる可能性が期待できる。しかし哺乳類の匂い応答測定は昆虫と大きく異なり、酵素抗体反応や遺伝子発現などを用いた複雑な細胞内の反応を利用している。そのため、本研究で解析している感度調節物質に含まれる夾雑物が匂い応答の測定を阻み、今後の研究推進において大きな課題となった。今後の研究ではこの課題解決を優先して推進するとともに、センサー実現に向けた具体的課題である細胞への気体状匂い刺激、嗅覚受容体タンパク質の機能的再構成の向上、新規の匂い応答測定砲の開発にも積極的に取り組む。 これらの研究実施により今後、電気化学的手法で解析する匂い物質の増加も期待でき、その測定も引き続き推進する。また、本研究で見出された拡散係数の変化という新規物理化学現象について、その事象が生じる機構を検討する。 匂い応答に関わる細胞外物質は、体内化学感覚器のオルガノイドでも産生されることが予想され、今後、オルガノイドを利用した物質精製、活性測定も実施する予定である。オルガノイドは通常球体であるため、単層培養系においても匂い応答に関わる細胞外物質の検出を試みる。
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