研究課題/領域番号 |
19H02537
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
渡辺 豪 北里大学, 理学部, 准教授 (80547076)
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研究分担者 |
吉田 純 北里大学, 理学部, 講師 (60585800)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | キラル液晶 / 分子動力学 / キラル金属錯体 / ソフトマテリアル |
研究実績の概要 |
本研究では、計算科学的手法と実験科学的手法を連携した新規なアプローチにより、キラル分子に剛直な骨格を持つ八面体型金属錯体を用いたキラル液晶における金属錯体の分子構造ねじれと系全体に発現するらせん構造との相関関係の理解、さらにはナノスケールのらせん構造における制御因子の提案を目指している。 令和二年度の計算科学による研究においては、分子レベルのミクロな描像を可視化する上で有用な分子動力学(MD)シミュレーションを基盤とした、キラル金属錯体の物性を予測する手法を様々な系に適用して、ゲストであるキラル錯体ドーパント分子とホスト液晶の相関関係解明に取り組んだ。キラルドーパント分子のホスト液晶への相溶性が高い系では、液晶分子の拡散係数は液晶のみの系と同程度であり、添加するキラル錯体分子の液晶への相溶性が低くなると液晶分子の拡散係数も小さくなることが明らかとなった。また、ドーパントであるキラル錯体分子とホスト液晶の混合系において分子間相互作用エネルギーを解析したところ、キラルドーパント分子とホスト液晶分子が同様の棒状形状のとき、カラミチック液晶への相溶性が高いことを示唆する結果も得られた。 合成実験では、「C2軸に垂直方向に配位子が伸長した金属錯体型キラルドーパント」の開発を行った。合成した3種類のキラル錯体分子を複数の液晶に混合した系を調査した結果、その1つでMBBAというネマチック液晶に添加した場合に巨大ならせん誘起力を示すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算科学サイドの研究は、ホスト液晶へのキラル錯体ドーパント分子の相溶性に関する新たな知見が得られ、新規分子設計を行う上で重要な指針となることが分かり、一定の成果が出ている。 実験サイドでは、ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を配位子骨格として検討した。開発したキラルドーパントは3種類であり、それぞれRu-2C0、Ru-C0C8、Ru-2C8と称する。偏光顕微鏡観察およびCD測定を用いて各錯体のらせん誘起力を評価した結果、Δ体のRu-2C8においてMBBAに添加した場合、155と大きな値を示した。 これまでに金属錯体を分子骨格にもつ様々なキラルドーパントの設計を達成しており、研究全体として概ね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
計算科学を用いる研究では、液晶中に添加するキラル錯体分子の濃度を変化させた場合のホスト液晶の物性に及ぼす影響について検証する。また、令和二年度中に明らかとなったカラムナー液晶を発現するキラル錯体分子について、構造の詳細を明らかにする分子動力学シミュレーションにも取り組む予定である。 Ru-2C0、Ru-C0C8、Ru-2C8の違いを、らせん誘起力の値以外に、熱力学的測定を行うことで調査する。これによって、錯体ドーパントに真に必要な骨格を明らかにしていく。
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