本研究では、計算科学的手法と実験科学的手法を連携した新規なアプローチにより、キラル分子に剛直な骨格を持つ八面体型金属錯体を用いたキラル液晶における金属錯体の分子構造ねじれと系全体に発現するらせん構造との相関関係の理解、さらにはナノスケールのらせん構造における制御因子の提案を目指している。 令和四年度の実験研究では、エナンチオ体がキラルカラムナー液晶を取る八面体型金属錯体において、Δ体、Λ体を等量含むラセミ体がレクタンギュラーカラムナー液晶を発現することを見出した。また、カラム内部の分子積層距離はカラムによって異なる3パターンが存在することを微小角入射X線回折や偏光顕微鏡観察によって確かめた。 また計算科学による研究では、実験において確認されたラセミな系が形成するカラムナー液晶の集合構造の詳細を分子動力学(MD)シミュレーションによって調べた。その結果、同一カラム内ではΔ体とΛ体がペアを形成していることが分かった。また、平衡状態では分子間の平均積層距離が異なる3種類のカラムが安定して存在しており、これはGI-XRDの結果が示唆する3パターンの分子間積層距離の裏付けとなっている。この平均積層距離の違いは、分子のカラム軸に対するティルト角の違いに起因するものと考えられる。
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