研究課題
光共振器中の超伝導体ジョセフソン接合におけるテラヘルツ帯レーザー発振の実証に向けて、当該年度は超伝導体単結晶テラヘルツ光源と外部共振器構造の電磁結合に着目し、平面マイクロストリップアンテナの設計と特性評価に関する実験研究を実施した。研究代表者らは、高温超伝導体テラヘルツ光源と結合する三角形パッチアンテナを電磁界シミュレーションにより設計し、リフトオフ法を応用して単結晶メサ型素子に装填した。テラヘルツ波の放射特性を測定した結果、同一基板上に作製した複数のメサ型素子から再現性の高いコヒーレントなテラヘルツ波放射の観測に成功した。発振周波数は0.35 THzから0.85 THzの範囲で連続的に可変であることを示した。当初期待された高効率な高強度発振は観測されなかったものの、熱浴温度40ケルビン以下の温度領域においてインピーダンス整合を示唆するプラトー挙動を観測した。また、アンテナ付与による軸比増大効果を観測し、共振器のモードロック効果を示唆する実験結果を得た。本研究で得られた知見は、コンパクトかつモノリシックな高温超伝導体テラヘルツ光源の高性能化に役立つばかりでなく、超伝導体テラヘルツ発振現象の基本的理解にもつながることが期待される。当該年度に得られた研究成果は、アメリカ光学会(OSA)のOptics Express誌で原著論文として発表した。論文は4月27日現在in press。関連する研究成果は米国物理学協会のJournal of Applied Physicsに投稿中である。本研究で得られた成果の一部について、国際学会で1件の口頭発表と1件のポスター発表、国内学会で11件の口頭発表と2件のポスター発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
実施期間の2年度目である当該年度は、研究目的を達成するための具体的な素子構造として、新しい外部共振器構造の設計と実装を短期間に行った。そして超伝導体テラヘルツ光源と共振器構造の結合特性を実験的に評価し、定量的な知見を得た。電磁界シミュレーションと特性評価実験を組み合わせて設計パラメータを最適化する手法を開発し、弱いながらも超伝導体テラヘルツ光源と平面共振器の相互作用の観測に成功したことは重要である。研究成果はアメリカのアルゴンヌ国立研究所とトルコのサバンチ大学との共同研究の成果として論文発表し、国際学会と国内学会では研究課題解決に向けて議論を行った。当該年度に行った研究は次年度以降の研究の発展につながるものと確信しており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
本研究の今後の推進方策としては、当初の計画通り超伝導レーザー発振実験で用いる光共振器の設計と開発を行う。具体的には、対面ミラーからなるファブリペロー型光共振器を開発する。高いQ値を持つファブリペロー型を採用することで電子対のトンネル確率を共振器の減衰率より高め、超伝導体ジョセフソン接合のレーザー発振を検証する。ミラーの曲率は幾何光学的に最大の帰還応答が得られる共焦点条件で設計する。光学部品の製作に際しては光学素子メーカーからの協力を受ける。超伝導レーザー発振を実験的に観測するためには、発振器から放出されたフォトンを高感度なテラヘルツ波検出器でモニターし、検出フォトン数を注入した電流量の関数としてプロットしたときに現れる非線形特性を測定する。同時に、研究代表者が開発したスプリットミラー型分光計を使ってフォトンのパワースペクトルを調べる。さらに、共振器と素子の電磁結合の強さは外部磁場で変調できるため、磁場の印加によって自然放出と誘導放出を人工的に切り替えることを試みる。
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Optics Express
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