研究課題/領域番号 |
19H02541
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 至崇 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40224034)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子ドット / 量子ドット太陽電池 / 中間バンド太陽電池 / 分子線エピタキシ- / タイプⅡ超格子 |
研究実績の概要 |
量子ドットを利用した中間バンド太陽電池の高効率化に向けて、次に挙げた課題に取り組む必要がある。(1)中間バンドが再結合中心となり、発光再結合及び非発光再結合レートが増大し開放電圧が下がってしまうこと、(2)中間バンドでのキャリア占有率、また量子ドットの光吸収が低いと中間バンド→伝導帯への2段階目の光吸収が少なくなること、(3)量子ドット層と周囲の材料のエネルギー障壁が小さいと2段階光吸収が起こる前にキャリアの熱脱出が起こってしまうこと、そして(4)量子ドットの面内密度が低くかつ面直方向に十分に近接させることができない場合、中間バンド(超格子ミニバンド)が形成されないこと、などである。特に、量子ドット導入による再結合損失が大きい理由の1つとして、InAs/GaAs量子ドットのバンド構造がタイプIであることが挙げられ、このとき発光再結合レートが大きくなりキャリア寿命が短くなる。1段階目の光吸収と2段階目の光励起および再結合レートを釣り合わせるためには、タイプIIのバンド構造が有効であると考えられる。 そこで本年度は、GaSb/GaAs系のタイプⅡ量子ドットの成長と評価を行った。GaSb/GaAs量子ドット成長した後、As供給下で成長を中断すると、形状が量子ドットから量子リングへ変化することが知られている。これは量子ドットの頂点は歪みが大きくAsとSbが置換しやすいため、頂点付近からGaが拡散または脱離するためだと考えられている。このとき、量子ドット太陽電池より量子リング太陽電池の方が特性が良いという報告が多いが、そのメカニズムについては不明な点が多い。そこでGaSb/GaAs量子ドットと量子リングの物性がデバイス特性与える影響について調べた。またGaAsSb/GaAs量子ナノ構造の組成がバンド構造とキャリア寿命に与える影響について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、GaAs(001) 基板上に作製したGaAsを母体材料とした量子ドット太陽電池および量子リング太陽電池について、GaAsSbの組成制御、及び成長速度の最適化によって量子ナノ構造におけるキャリアの長寿命化を試みた。 (1)GaSb量子ドットのキャリアの長寿命化に向けた成長速度の最適化、(2)低速成長におけるGaAsSb/GaAs量子ドットの組成制御、(3)GaAsSb/GaAs量子リングを用いたキャリアの長寿命化と高速成長の両立、に関し研究を行い有益な結果が得られた。 以上から、これまで成長及び組成制御が困難とされてきたGaAsSbの成長条件の最適化を行い、GaAsSb/GaAs量子ナノ構造太陽電池を作製することができた。なかでもGaAsSb/GaAs量子リング太陽電池において、キャリアの長寿命化とそれに伴うデバイス特性の改善が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
タイプⅡ型GaAsSb/GaAs量子リング太陽電池において、キャリアの長寿命化によるデバイス特性の改善が得られたことから、変換効率向上に向けたセル構造の最適化を行う。 (1)昨年度に引き続き、サイズ揺らぎを約10%以内、面内ドット密度1e11/cm2以上、また量子ドットへのドーピング条件の確立に取り組む。 (2)MBE成長時にSbを照射するとサーファクタント効果が期待され、ヘテロ界面の低欠陥化、また量子ドットのサイズ均一化と高品質化が期待できる。昨年度に引き続き、Sbが量子ドットの自己組織化成長モード、及び結晶性に与える効果について評価・解析を行う。 (3)中間バンド型太陽電池において、集光動作時の高い電流密度を低くし、一方で開放電圧を上げるアプローチとして、高エネルギーギャップのトップセルの下に、InAs/GaAs量子ドット中間バンドセルを配置した集光セルを検討してきた。本年度は、トップセル材料としてInP基板に格子整合するAlGaAsSb系化合物を取り上げる。表面のステップ構造の特性、光吸収特性、残留キャリア密度などの電気的特性などを評価し、トップセルとして利用する際の指針を得る。
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