研究課題/領域番号 |
19H02544
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 聡 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00292772)
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研究分担者 |
南谷 英美 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 准教授 (00457003)
清水 康司 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00838378)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 層状物質 / フォノン / 電子フォノン相互作用 / 第一原理計算 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
層状物質のフォノン物性の解析に向け、第一原理計算および第一原理計算データに基づく機械学習原子間ポテンシャルを用いた研究を前年度までに引き続き進め、以下の成果を得た。 まず、アモルファスカーボンの熱伝導特性を第一原理分子動力学法により解析した。熱伝導率が密度と共にほぼ線形に増大するという強い相関関係を見出した。さらに、sp/sp2/sp3結合の比率およびこれを反映した構造のトポロジカルな特徴が密度と強い相関を示すことを見出した。さらに、これらの構造的特徴がパーシステントホモロジー解析で定量化でき、これを用いて熱伝導率に対する線形回帰モデルを構築できた。 次に、機械学習ポテンシャルを用いたフォノン関連物性の解析に関しては、点欠陥の荷電状態の違いを考慮したニューラルネットワークポテンシャル(NNP)を開発し、このNNPにより欠陥を含む系のフォノンバンド構造もよく予測できることを示唆する結果を得た。またこの過程で、窒素空孔を含む窒化物半導体のフォノンバンド構造が空孔の荷電状態により大きく変化することを見出した。 さらに、本研究で用いてきた全結合型NNPとは異なるNNPが近年いくつか提案され、その中にはエネルギーや力に対する予測精度が本研究で用いているNNPを上回る可能性が報告されているものがあることに鑑み、有望なNNPに対しフォノンバンド構造の予測精度の評価を行った。畳み込みネットワークを用いたNNPがLi3PO4やGaNのエネルギー・力の予測で本研究で用いてきたNNPを上回る性能を示し、GaNのフォノンバンド構造についても同等以上の性能を示すとの結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
機械学習原子間ポテンシャルの研究が世界的に盛んになり、競争が激しくなってきたことに鑑み、本研究で用いてきたタイプ以外のニューラルネットワークポテンシャルの予測性能評価に急遽取り組んだ。このため、予定した研究内容の一部にやや遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に記したように、本年度の研究で本研究で用いてきたものとは異なるタイプのニューラルネットワークポテンシャル(NNP)の性能が優れていることを示唆する結果が得られた。そこで、畳み込みニューラルネットワークを用いたNNPの予測精度について、フォノン関連物性における予測精度に焦点をあてて十分な検証を行い、高性能なネットワーク構造を見極めることを含め、機械学習ポテンシャル計算を用いた熱関連物性に関する取り組みに注力する。 上記の検証以外に、3次元的なバルク構造については合金やアモルファス構造も含めて効率的に学習を行うためのデータサンプリングの方法が確立してきたのに対し、層状物質や薄膜界面についてはまだ試行錯誤の段階であること、およびこれまで多様な系についてニューラルネットワークポテンシャルの作成に取り組んできた経験を有することを踏まえ、これらの場合に有効な学習データサンプリング法の確立にも取り組む。 以上を踏まえた上で、本題である熱関連物性のニューラルネットワークポテンシャルでの解析に取り組む。対象としては、アモルファスグラフェンやWS2薄膜等の層状物質を主に取り上げる。また、基板‐層状物質界面の影響が重要なポイントであることに鑑み、GaN等、必ずしも層状物質でないが本グループのこれまでの研究でポテンシャル作成の実績がある材料の超格子を用いて界面の影響を探る試みも進める。
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