研究課題/領域番号 |
19H02549
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田島 健次 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (00271643)
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研究分担者 |
安藤 英紀 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 特任助教 (00735524)
石田 竜弘 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (50325271)
甲野 裕之 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 教授 (70455096)
磯野 拓也 北海道大学, 工学研究院, 助教 (70740075)
佐藤 敏文 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80291235)
藤田 彩華 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 助教 (90782011)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸素移動容量係数 / 表面改質 / シランカップリング / グラフト化 / 開環重合 / 腹膜播種 / 腹腔内滞留性向上 / 副作用低減 |
研究実績の概要 |
10Lジャーファーメンターに排ガス分析計を溶存酸素計とともにプロセスコントローラーに接続し、得られるデータをもとに酸素移動容量係数(kLa)を決定した。非加圧下と加圧下(0.03 MPa)で、回転数を種々変化させてkLaの測定を行った。非加圧下には、回転数の増加とともにkLaの値も増加する傾向が見られたのに対し、加圧下には回転数に依存せず、kLaが高い値を維持していた。この結果を踏まえ、加圧しながらの培養を行った。非加圧下に比べ菌体の増殖速度が速く、ナノフィブリル化バクテリアセルロース(NFBC)の生産速度、収量ともに増加した。加圧下における生産速度は、2.0g/L/dとなり、非加圧下の2倍に増加させることに成功した。 NFBCの表面の水酸基やカルボキシメチル基を反応点として、塩化グリシジルトリメチルアンモニウムによるカチオン基の導入、アミノプロピルトリメトキシシリルによるアミノプロピルシリル基の導入、εカプロラクトンの開環重合によるグラフト化による表面修飾を行った。それぞれの方法において置換基の導入が確認され、NFBCの表面修飾に成功した。 Paclitaxel(PTX)は胃がん腹膜播種などの腹腔内投与に用いられる抗がん剤である。PTXの腹腔内滞留性向上による治療効果増強と副作用低減を目的に、物理化学的性質の異なる2つのNFBCを用いた新規PTX製剤(PTX/NFBC)の開発を行い、その治療効果を比較検討した。PTX/CM-NFBCおよびPTX/HP-NFBCは、胃がん腹膜播種に対して高い治療効果を示し、PTXの副作用を顕著に低減しうることを明らかにした。その中でも、PTX/CM-NFBCは高い抗腫瘍効果を示すのに対し、PTX/HP-NFBCは毒性を顕著に軽減するということを示し、NFBCの物理化学的性質の違いにより異なる性質を有するPTX製剤の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度計画していた実験の内、NFBCの量産化、NFBCの表面修飾、NFBCを用いた新規製剤の調製について、ある程度の成果を得ることができた。 NFBCの量産化では、加圧可能なステンレス製のものを使用し、加圧下で培養を行うことによって生産速度を2倍程度まで上げることに成功した。非加圧下、加圧下で様々な回転速度における酸素医療用量係数(kLa)を測定したところ、加圧下では低い回転数においても高いkLaを得ることができることから、初期の菌体増殖それに続くNFBCの生産が速く、最終的な収量も増えることによると考えられる。 次にNFBCの表面修飾では、塩化グリシジルトリメチルアンモニウムによるカチオン基の導入、アミノプロピルトリメトキシシリルによるアミノプロピルシリル基の導入、εカプロラクトンの開環重合によるグラフト化を行った。いずれの方法においても官能基の導入が確認され、NFBCの性質を改変することに成功した。具体的には、塩化グリシジルトリメチルアンモニウムではカチオンがNFBCに導入され、マイナスチャージを持った物質と混合することによって電荷が中和され、凝集体が形成された。アミノプロピルシリル基の導入では、表面をより疎水化することができた。XRDの解析結果やSEMによる形態観察から置換基はNFBC表層のみに導入されており、繊維形体、結晶構造は維持されていることが確認された。また、開環重合法を適用することによって、簡便にNFBC表面にポリマーを導入可能であることが確認された。 NFBCを用いた新規製剤に関しては、Paclitaxel(PTX)と性質の異なる二種類のNFBC(CM-NFBC:親水性とHP-NFBC:両親媒性)を用いた。PTX/HP-NFBCは毒性を顕著に軽減するということを示し、NFBCの物理化学的性質の違いにより異なる性質を有するPTX製剤の開発に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
NFBCの調製については、新しい分散剤についてまずはフラスコスケールでの検討を行う。構造解析や物性測定の結果これまでのNFBCと異なるものに関して、ファーメンターを用いた大量調製を行う。構造解析については、形態観察(走査型電子顕微鏡(SEM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)等)、X線回折、固体NMR等により解析を実施する。試料ライブラリーにおけるセルロース誘導体の接着量、フィブリルサイズ、結晶化度に関する情報を集約し、各データを統計的に調査・分析することでNFBC合成条件と分子構造の相関性を明らかにする。 表面修飾に関しては、これまでに開発した方法論をベースとして、さらに異なる置換基を導入し、物性を変化させる。 NFBCを用いた新規製剤の調製についてはこれまでのNFBCを含め、表面を改質した新しいタイプのNFBCも用い、新しい製剤の開発を行う。がん治療薬に関しても、PTX以外のものを使用し、NFBCの構造・性質と薬剤の相互作用に関する基礎的知見を取得する。
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