研究課題/領域番号 |
19H02553
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
仲谷 栄伸 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20207814)
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研究分担者 |
田辺 賢士 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00714859)
山田 啓介 岐阜大学, 工学部, 助教 (50721792)
河口 真志 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90792325)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究は、機械学習を利用して、磁気力顕微鏡(あるいはTMR素子を用いたナノ解像度磁区観察装置)の磁区画像から磁気パラメータ推定の研究を行うものである。機械学習用の教師用磁区画像データには、磁気パラメータの異なる磁区画像データが大量に必要となるが、これを実験的に作成することは不可能であるため、マイクロマグネティックシミュレーションを用いることで実現する。またテスト用磁区画像データには、マイクロマグネティックシミュレーションを用いたものと、実際に実験によって測定されたものを用いる。マイクロマグネティックシミュレーションを用いたものは人工知能の精度をチェックするためである。最終目標は実験によって測定された磁区画像から磁気パラメータを推定することである。 本年度は、我々はマイクロマグネティックシミュレーションによる教師データとテスト用データの作製と、実験による磁区画像の測定、磁気パラメータの測定を行い、機械学習による磁気パラメータの予測が可能であるか調査した。 その結果、(1)マイクロマグネティックシミュレーションによって作成されたテスト用データを推定させた場合、最高で0.05 erg/cm^2の精度でジャロシンスキー守谷交換定数の推定が可能であることが明らかになった。(2)さらに複数の磁気パラメータを変化させた教師データを作成することで、複数パラメータの同時推定が可能であることが明らかになった。 次に(3)実験データを用いた推定実験を行った。Co薄膜を作製し、各磁気パラメータを測定した。テスト用データに実験的に測定された磁区画像を用いて推定実験を行ったところ、熱擾乱なしで作成された教師データではうまく推定できないことが明らかになった。さらに(4)熱擾乱を加えて作成された教師データを利用することで、推定値と測定値が近づく傾向を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に書いた通り、マイクロマグネティックシミュレーションによって作成されたデータを用いて学習した人工知能に対して、マイクロマグネティックシミュレーションによって作成されたテストデータを読み込ませたところ、ジャロシンスキー守谷交換定数に加えて、異方性分散の複数パラメータの同時推定を可能であることを明らかにした。また実験画像を用いたパラメータ推定も行ない、測定値に近い推定値を得るために必要な条件が得られつつある。 具体的には、(1)熱擾乱なしで、ジャロシンスキー守谷交換定数のみを変数として取り扱い、マイクロマグネティックシミュレーションによって作成されたテスト用データを推定させた場合、最高で0.05 erg/cm^2の精度で推定が可能であることが明らかになった。さらに(2)熱擾乱なしで、複数の磁気パラメータ推定(ジャロシンスキー守谷交換定数と異方性分散)を行ったところ、最高でそれぞれ0.05 erg/cm^2、0.005の精度で同時推定が可能であることが明らかになった。次に(3)実験データを用いた推定実験を行った。Ta(0 3 nm)/Pt(2 nm)/Co(0.89 nm)/ MgO (0.6 nm)/Ta(1 nm)の薄膜を作製し、各磁気パラメータを測定した。テスト用データに実験的に測定された磁区画像を用いて推定実験を行ったところ、熱擾乱なしで計算された教師データではうまく推定できないことが明らかになった。さらに(4)熱擾乱を加えて計算された教師データを利用し田ところ、30nsの熱緩和により、推定値と測定値が近づく傾向を見出している。このように計画当初は気付かなかった熱ゆらぎ効果が、今後実験画像と比較する上で重要になることが明らかになってきたため、「(2)おおむね順調に進捗している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べたように、実験画像の推定では熱揺らぎと熱緩和時間が重要であることが明らかになった。さらにマイクロマグネティックシミュレーションでは、複数の磁気パラメータの測定値を用いているが、測定精度に問題のあるパラメータも存在する。このため、熱擾乱効果や、さらにこれまでは測定値で固定していた磁気パラメータも変化させて教師データを作成し、実験画像推定への影響を調査する。
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