単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、ナノ構造特性として位置づけられる励起子由来の近赤外発光を示す。SWNTへの化学修飾を欠陥ドープ技術に利用することで合成される局所化学修飾SWNT(lf-SWNT)では、近赤外発光の長波長化や高輝度が可能となる。本研究では、化学修飾によってlf-SWNTに導入した有機分子の電子・構造特性に基づく近赤外発光の波長域拡張や波長変換などの機能化の実現とそのメカニズム解明を行った。 2021年度は、前年度より検討してきたフォトクロミック分子を修飾したlf-SWNTを種々合成し、評価を行った。その結果、特にジアリールエテン(DAE)を修飾したlf-SWNTでは、チューブ上でDAEの可逆的な光異性化反応を導くことができ、それに基づく近赤外発光の波長スイッチングが可能なことを明らかにした。本機能はDAEが有する異性体の高い安定性や繰り返し耐性などの特性により実現されており、lf-SWNTの発光特性を外部からの光刺激で変換できる光スイッチングを開拓した初めての例である。 lf-SWNTが周囲の誘電的環境の違いに応答して敏感な発光波長変化を示すという独自知見をもとに、二点化学修飾型lf-SWNTを含む種々のlf-SWNTの環境応答性を調査した。その結果、lf-SWNT上のドープサイトにおける分子レベルでの構造の違いが励起子の局在化度といった励起子物性の変化を導き、それにより環境応答性を大きく変調できることを見出した。 また、アジド化合物を用いた他の化学修飾技術によっても欠陥ドープに基づくlf-SWNTの合成ができ、新たな近赤外発光特性を創出できうる知見を開拓した。 以上のように、修飾分子の分子設計がlf-SWNTの発光機能を決定づける因子となることが示され、既存の物性の枠を超えた近赤外発光特性のさらなる高機能化が実現できることを明らかにした。
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