研究課題/領域番号 |
19H02561
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
野内 亮 大阪府立大学, 工学研究科, 准教授 (70452406)
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研究分担者 |
永村 直佳 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (40708799)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原子層半導体 / 多層 / 二硫化モリブデン / ヒステリシス / 電界効果トランジスタ / エッジ終端化 / フッ素終端 |
研究実績の概要 |
本研究では、原子層半導体のエッジ状態が半導体デバイス動作に与える影響を詳らかにすると共に、エッジの異種元素や分子による終端化でエッジ状態低減を図る。原子層物質のエッジ終端化研究の難しさは、エッジ終端化効果と表面吸着効果が切り分けられないことにある。それに対し、研究代表者は、分厚い結晶を用いたバックゲート型電界効果トランジスタ(FET)なら、電流が流れる部分(チャネル)が表面から離れて表面吸着効果を無視し得るため、エッジ終端化効果のみが調査可能となることを提唱した。
本年度は、代表的な原子層半導体である二硫化モリブデンの多層薄片を用いてFETを作製し、昨年度に新設したプラズマ処理装置を用いた処理の前後で、FET特性がどう変化するかについて調べた。プラズマ処理の効果はエッジだけではなく表面にも及ぶわけであるが、分厚い薄片を用いることで、表面効果がFETのチャネルに与える影響を最小化できる。フッ素プラズマ処理前後の二硫化モリブデン厚膜のFET特性変化を測定したところ、FET特性の測定時における電圧の往復掃引に伴って生じる電流のヒステリシスが、フッ素プラズマ処理により明瞭に減少することを確認した。これは、エッジがフッ素原子で終端化されたことによって疎水化し、大気中動作FETのヒステリシスの主因として知られる水分子の吸着が妨げられた結果であると解釈できる。また、表面吸着したフッ素による電子濃度減少を顕微Raman散乱分光により確認しているが、電子濃度減少がFETチャネルに及んでいる場合に観測されるべき閾値電圧シフトが観測されなかったため、表面効果はチャネルには及んでいないものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、分厚い層状半導体結晶を用いたバックゲート型FETにより、エッジ終端化効果と表面吸着効果を切り分けることで、エッジ終端化効果のみを調査する。分厚い薄片を得るには、通常、粘着テープを用いた機械的剥離法を用いる。この手法により得られる薄片はマイクロメートルスケールと小さいことが多く、FET作製にはリソグラフィー的手法を利用する必要がある。当研究室においては電子線リソグラフィーを用いて試料作製を行っているが、電子線リソグラフィー装置を設置しているクリーンルームの空調故障があり、室温が高温となる季節は長期間にわたって装置利用ができない状態であった。年度初めの緊急事態宣言下での実験停止期間も含め、トータルの実験時間の確保に困難が生じていた。以上により、この評価となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の結果、多層の原子層半導体FETを用いることにより、エッジ終端化効果のみを観測可能であることを確認した。しかしながら、作製できた試料数が少なかったため、表面吸着効果の大小を制御した実験(原子層膜厚を変えた実験)、および、エッジ終端化効果の大小を制御した実験(原子層薄片幅を変えた実験)が不十分であった。今後は、包括的な理解ができるよう、作製素子数を増やすことにまずは注力する。その上で、エッジ終端化効果の確認ができた試料を用い、エッジ終端元素の化学結合状態やエッジ終端化に伴うポテンシャル変化の調査を行う。
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