研究課題/領域番号 |
19H02562
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
立崎 武弘 東海大学, 工学部, 講師 (20632590)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | チップ増強ラマン分光 / 走査プローブ顕微鏡 / 導波路 / 有機薄膜 / プラズモン |
研究実績の概要 |
我々特有の導波路型シリコン薄膜ナノ光プローブに、独自設計の高精度高安定ビーム制御技術と高S/N光検出系を組合わせることで、安定したチップ増強ラマン分光(tip-enhanced Raman spectroscopy, TERS)を実現するシステムを構築した。そして、本TERSシステムを活用し、TERSで特有の応答を示す有機薄膜材料を利用したデモンストレーション計測を実施した。本計測によって、本研究で創出した導波路型ナノ光プローブが長寿命で高い測定再現性・スペクトル再現性を有し、小散乱断面積の振動モードを励振して測定できる程の電場増強度を示すことを定量的に明らかにした。また、得られた結果を幾何光学・波動光学に基づくモデルを構築して解析し、有限要素法と時間領域差分法を活用した数値シミュレーションとも比較して、導波路型ナノ光プローブの優位性と実用性を定量的・定性的に明らかとした。本研究結果は成果化を進めており、エディタ・レビュワーから高い評価を得ている。 構築したTERS計測システムを活用し、誘電体基板におけるTERSに挑戦した。多くの場合、TERSは金基板を用いてその電場増強度を高める理想的な状況下で計測が行われているいる。しかしながら、それがために利用可能な状況が限られているともいえる。一方、本研究で得られた導波路型ナノ光プローブによって誘電体基板でもTERSが可能であることを示すことができれば、創出したナノ光プローブの優位性を示すことができ、かつTERSの応用範囲を広げられる。実験の結果、誘電体基板においても増強電場による局所分光が可能であることを実証できた。さらに、電場増強度とラマンシフト量に相関があることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高安定・高効率の光学系を開発し、創出した導波路型シリコン薄膜ナノ光プローブを実験的に定量的に評価できた。さらに理論面からも解析・評価を実施でき、既存の一般的なナノ光プローブや既成のラマン分光プラットフォームに対するベンチマークを定量的に実施できた。技術の完成度は当初の想定を上回っており、研究開発が順調に推移していると言える。また一方で、シミュレーションを活用した設計・解析のプラットフォームも順調に稼働しており、成果を出している。以上のように、コア技術・関連技術の研究・開発が順調に推移しており、物性研究用プラットフォームの構築・開発が計画以上で推移している。更に、構築したチップ増強ラマン分光の計測プラットフォームで顕微測定を計画している先端材料の基礎評価も実施しており、全体を俯瞰しても研究・開発の両面で順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで進めてきた技術・装置開発に関する内容を早急にまとめ、成果化を進める。また、安定してチップ増強ラマン分光計測が可能であるプラットフォームを活用した物性研究を進める。現在までに利用してきた単分子層有機薄膜はモデル物質でありその素性は良く知られている。今後は、新規物質や実用上興味を持たれている物質を中心に、構築したプラットフォームの活用を進める。特に、探針による電場増強を生かした計測や、レーザー分光・エレクロトニクス連携計測を進め、物質・デバイスの機能解明を目指した研究開発を推進する。 一方、装置のブラッシュアップも継続して推進する。例えば電気信号処理系を見直し、低ノイズ化やシステム全体の更なる安定化を推し進める。具体的には、現在はソフトウェアで処理している高速信号処理をハードウェアに移植することで、全体のパフォーマンスを向上させる計画である。また光学系の改良も計画しており、安定性と測定精度の向上、分光計測操作の簡便性を向上する計画である。更に、測定対象に応じた最適な計測を行えるような試作も進め、開発したチップ増強ラマン分光計測プラットフォームの汎用性を高めて広く物性計測で利用できるように開発を進める。
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