研究課題
本研究プロジェクトにおいて創出した導波路型シリコン薄膜ナノ光プローブに、独自設計の高精度高安定ビーム制御技術と高効率光検出系を組合わせることで、安定したチップ増強ラマン分光(tip-enhanced Raman spectroscopy, TERS)を実現する計測システムを構築した。そして、本TERSシステムを活用し、TERSでのみ応答を示す有機薄膜材料を利用したデモンストレーション計測を実施した。本計測によって、創出した導波路型ナノ光プローブが長寿命で高い測定再現性・スペクトル再現性を有し、小散乱断面積の振動モードを励振して測定できる程の電場増強度を示すことを定量的に明らかにした。また、得られた結果を幾何光学・波動光学に基づくモデルを構築して解析し、有限要素法と時間領域差分法を活用した数値シミュレーションとも比較して、導波路型ナノ光プローブの優位性と実用性を定量的・定性的に明らかとした。構築したTERS計測システムを活用し、誘電体基板におけるTERSに挑戦した。多くの場合、TERSは金基板を用いてその電場増強度を高める理想的な状況下で計測が行われているいる。しかしながら、それがために利用可能な状況が限られているともいえる。一方、本研究で得られた導波路型ナノ光プローブによって誘電体基板でもTERSが可能であることを示すことができれば、創出したナノ光プローブの優位性を示すことができ、かつTERSの応用範囲を広げられる。実験の結果、誘電体基板においても増強電場による局所分光が可能であることを実証できた。さらに、電場増強度とラマンシフト量に相関があることも見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
高安定で高検出効率の光学系を開発し、創出した導波路型シリコン薄膜ナノ光プローブを実験的に定量的に評価でき、有意性を明確にできた。さらに理論面からも解析・評価を実施でき、既存の一般的なナノ光プローブや既成のラマン分光プラットフォームに対するベンチマークも実施できた。技術の完成度は当初の想定を上回っており、研究開発が順調に推移していると言える。また一方で、シミュレーションを活用した設計・解析のプラットフォームも順調に稼働しており、成果を出している。特に、広帯域性やプロセスマージンの大きなナノ光プローブを得るための解析にも着手できた。以上のように、チップ増強ラマン分光計測というコア技術と、関連する光学技術の研究・開発は順調に推移しており、物性研究用プラットフォームの構築・開発が計画以上で推移している。成果化も着実に行えており、なおかつ、当初の予定を越えて改良型ナノ光プローブの技術開発にも着手できた。全体を総括すると、研究・開発・成果化の全ての面で計画以上に順調に推移していると判断される。
現在まで進めてきた高速ナノ光計測に関わる技術研究・装置開発をさらに推し進める。また、安定してチップ増強ラマン分光計測が可能なシステムを活用した物性研究も推進する。現在までに利用してきた単分子層有機薄膜はモデル物質でありその素性は良く知られている。今後は、新規物質や実用上興味を持たれている物質を中心に、開発したコア技術である顕微分光計測の応用展開を進める。特に、探針による電場増強を生かした誘電体基板上薄膜をターゲットとした分光計測や、レーザー分光・エレクロトニクス連携計測技術の開発を含め、物質・デバイスの機能解明に資する研究開発を推進する。最終年度も、計測装置・関連技術の改良も継続して推進する。具体的には、より高効率の分光計測光学系を設計し、試作評価も行う予定である。また電気信号処理回路を見直し、計測システム全体の安定化・高速化・簡易化を進める。そのために、例えば安定した高速信号処理を行う専用回路の開発・回路基板試作も計画している。更に、光利用効率や広帯域性の向上を目論んだ改良プローブも試作する。これら関連技術の開発・評価および、それらの技術を活用した物理・化学計測の成果化も着実に実行する。
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