研究課題
本研究では、超音波照射によって一重項酸素(1O2、強力な酸化力をもつ活性酸素)を高効率に発生する音増感剤(超音波に応答して1O2を生成する物質)として、金量子ドット(金ナノクラスター)を新規に創出する。「超音波照射による金ナノクラスターの励起と一重項酸素発生との関係」の観点から、金量子ドットの音増感作用機構を明らかにする。超音波照射で一重項酸素を高効率に発生する粒子設計指針を確立することで、「量子ドット音増感剤」という新たな領域を開拓する。そして、金ナノクラスターの音増感作用による感染症細菌の殺菌作用、及び触媒的酸素生成能を利用して、難治療感染症である歯周病の超音波治療法を新たに開発する。本年度は、金ナノクラスターのサイズ(構成金原子数:Au25, Au38, Au144, Au333)が超音波照射で発生する一重項酸素の発生量に与える影響を調べた。その結果、Au144量体が超音波照射により最も一重項酸素を多く発生することが明らかとなった。また、クラスターサイズ領域にある、Au25, Au38, Au144では、超音波照射により一重項酸素生成が観測されるのに対し、表面プラズモンが観測される金ナノ粒子Au333では一重項酸素生成が見られなかった。これは、超音波照射による一重項酸素生成が、金ナノクラスター特有の現象であることを示す。また、金ナノクラスターによる音増感作用(一重項酸素生成)を高めるには、そのサイズ制御に加えて、金ナノクラスターの一重項酸素による自己酸化抑制も有効であることも見出した。金ナノクラスターの超音波励起機構として、超音波キャビテーション下で生成するソノルミネッセンスと熱励起の両方に寄与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、高効率音増感作用を有する金量子ドット(金ナノクラスター)の粒子設計指針の確立を目的とした。その中で、高効率音増感作用を示す金ナノクラスターのサイズ(Au144量体)とその有機配位子(p-メルカプトベンゼン)を見出した。以上の成果から,当初の計画通りに進展しているといえる。
金量子(金ナノクラスター)ドットによるSDT及びSDT/PDTの検証金ナノクラスター(2020年度で見出した高効率音増感作用を示すAu144)のSDT医療応用を見据えて、生体親和性が高いPEG修飾水溶性金ナノクラスターを用いる。金ナノクラスターの音増感作用により発生する1O2の細菌への殺菌効果(SDT活性)を明らかにする。超音波照射時間は、1分~10分の間とする。検討項目としては、(i) 超音波照射+金ナノクラスター、(ii) 超音波照射のみ、(iii) 金ナノクラスターのみ、(iv)対照群(超音波照射無し、金ナノクラスターも無し)の4つである。殺菌効果の定量的指標として、一週間経過後の対照群(iv)の細菌生存率を100 %とした時の、(i)~(iv)の生存率より評価する。また、他の有機系量子ドット系としてカーボン量子ドットについてもSDTの有効性や、超音波と可視/近赤外光の同時照射による歯周病菌に対する相乗的な殺菌効果 (SDT/PDT活性)も検証する。最終年度となる本年度において、歯周病治療における量子ドットを用いたSDT法、及びSDT/PDT法の有効性を明らかにする。
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