研究課題
当該年度では自作の原子間力顕微鏡と高速オシロスコープを複合し、1nm/秒程度の極端に遅い速度で分子間の位置を変化させ、分子間相互作用を高速サンプリングする手法を開発した。ストレプトアビジン-ビオチン分子間の相互作用を10 pN以下の応力分解能、500ナノ秒の時間分解能での解析に成功した。これにより、従来の解析手法では、時間分解能の制約から解析不可能であった、結合形成の過渡状態・非特異的相互作用などによる複数の準安定状態の存在を明らかにし、カンチレバーの位置、変位から結合ポテンシャル地形の全体像を得ることを実現した。さらに時間分解能を向上させ、100ナノ秒の時間分解能で結合力のダイナミクスを計測した。
2: おおむね順調に進展している
申請書で述べた初年度の目標である、微視的な視点での分子ダイナミクスの計測手法の確立が達成できたことから、概ね順調に進展していると評価をした。特に1分子ダイナミクスの分子シミュレーションと実験の結果の直接比較によって、分子結合ダイナミクスの詳細に迫る。特に巨視的な手法では計測することが出来ない、結合・非結合状態の間に存在する準安定状態の数・平均寿命の正確な解析を行えたことは、今後の研究の進捗に大きく関わることから、重要な成果として評価した。
接近した2種類の蛍光色素間のエネルギー移動(FRET)を利用して、分子結合カイネティクスの観察を行う。ミリ秒オーダーの1分子レベルのカイネティクスを視野内の数100分子を同時に観測し統計解析することで、1分子の結合ダイナミクスの分布、微視的レベルのナノ秒オーダーのダイナミクスとミリ秒オーダーの分子結合カイネティクスとの相関を解析する。本実験は研究分担者(石田)と連携して行う。センサー表面に固定した受容体分子へのリガンド分子の秒~時間スケールの吸着カイネティクスを水晶振動子マイクロバランス法(QCM)、表面プラズモン分光法(SPR)で観測する。ここで観測される反応次数・速度定数などは従来の反応速度論を用いて解析する。上記3つのレベルでの分子結合カイネティクスに関して、分子環境の影響について特に重点的に調べる。具体的には従来のセンサー設計、あるいは創薬スクリーニングのための分子シミュレーションにおいて考慮されることがなかった、体液中・細胞内の分子夾雑状態の分子結合ダイナミクス・カイネティクスへの影響を定量的に調べるため、液中タンパク質濃度を系統的に制御した血清中、リンパ液中における解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 9件、 査読あり 10件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 10件、 招待講演 13件) 備考 (1件)
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