糖鎖はガラクトース・マンノース等の単糖が重合して形成される高分子であり,タンパク質や脂質に結合して主に細胞膜上に発現しており,細胞認識・増殖・がん化などの多くの生命機能に関与している。本研究ではナノスケール電気泳動と蛍光一分子顕微鏡を組み合わせ,各構造の糖鎖を一分子ずつ見分けてその数を計測する「一分子グライコーム解析法」を実現することで上記を解決し,「一分子オミックス解析」という新たな研究領域を開拓することを目指す。 これまでの研究成果として,モデルタンパク質等の試料を対象に一分子毎の電気泳動挙動をリアルタイムでモニタリングし,各分子がどの程度のみかけの電気泳動速度を持つかをヒストグラム化することに成功した。また,分子拡散によりみかけの電気泳動速度が大きくばらつく分子量の低い分子については,標的分子に抗体を結合させることで速度と拡散速度が変化する現象を利用し,分子特異的に複合体形成を判別することに成功した。 一分子電気泳動に関する基礎的知見が一通り得られ,最終的に汎用的な分析へと昇華させる必要が生じたことから,本プロジェクト終了に予定していた計画を前倒しし,特殊な高性能顕微鏡を要さない簡便な一分子検出技術の開発にも着手した。一光子検出能を有する光電子倍増管を用い,パルスレーザーおよびオシロスコープによって時間分解蛍光を解析することで,背景散乱光から糖鎖蛍光を分離して検出し,高感度に糖鎖を検出するシステムを構築した。
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