研究課題/領域番号 |
19H02585
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
内田 健一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, グループリーダー (50633541)
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研究分担者 |
関 剛斎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (40579611)
井口 亮 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主任研究員 (40707717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピンカロリトロニクス / トムソン効果 / 磁気熱電効果 / ロックインサーモグラフィ / 熱制御 / 磁性材料 / スピン流 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、磁気・スピン自由度とトムソン効果の相互作用がもたらす新しいスピンカロリトロニクスの物理と熱制御機能を開拓することである。本研究で得られた主な成果は以下の通りである。
(1) 前年度に確立したロックインサーモグラフィに基づくトムソン効果の計測・解析法を駆使して、トムソン効果によって生成された温度変化の磁場依存性を系統的に評価した。BiSb合金のトムソン係数が外部磁場に対して単調かつ飛躍的に増大することを見出し、0.9Tの外部磁場下でトムソン係数が98.3μV/Kに達することを示した。本成果は磁気トムソン効果の直接観測に成功した初めての例であり、Phys. Rev. Lett.誌に論文掲載された。本論文は同誌のEditor's Suggestionに選定されると共に、米国物理学会のオンラインジャーナル"Physics"において特集された。 (2) 磁性体において磁化と電流・温度勾配の相対角に依存してトムソン係数が変化する「異方性磁気トムソン効果」や熱電テンソルの非対角成分に由来する「横トムソン効果」に関する実験も進めた。現時点ではこれらの現象の観測には至っていないが、計測システム・解析プロセスは構築済みであり、有望な材料系の選定を行った。 (3) ケルビンの関係式の実験的検証に必要な磁気熱電効果の温度依存性計測システムを開発し、異常エッチングスハウゼン効果やスピンペルチェ効果の温度依存性を測定することで動作確認を行った(一部の結果がAppl. Phys. Lett.誌に論文掲載)。 (4) 磁気相転移を示す物質も計測対象に含め、相転移に伴う巨大トムソン効果の直接観測・冷却機能実証に成功した(論文執筆中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、磁気トムソン効果の世界初の観測など「非線形スピンカロリトロニクス」の端緒を開く重要な成果が得られている。磁気相転移を示す物質も計測対象に含め、相転移に伴う巨大トムソン効果の直接観測・冷却機能実証にも成功している。理論研究者との共同研究も開始しており、トムソン効果の成績係数の定式化を進めている。以上より、2021年度は更なる成果創出が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
すでに結果が得られている磁気相転移を示す物質系のトムソン効果に関する論文の早期掲載に向けて、最優先で論文執筆を進める。バルク材料におけるトムソン効果に関しては実験に必要な計測システム・解析ノウハウはすでに揃っているため、磁性合金を中心に物質依存性測定を進め、引き続き異方性磁気トムソン効果や横トムソン効果の観測を目指す。スピントムソン効果の計測法に関する検討や実験も進める。 これまでの実験によりゼーベック係数を超える巨大なトムソン係数を観測できているものの、トムソン効果を温度変調素子として使うための性能評価基盤が確立していないという問題がある。理論研究者との共同研究によりトムソン効果の成績係数の定式化を進めており、2021年度中の論文掲載を目指す。
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