研究課題/領域番号 |
19H02588
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉松 公平 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (30711030)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化チタン薄膜 / 金属絶縁体転移 / パルスレーザ堆積法 / 相転移デバイス |
研究実績の概要 |
本研究では、二酸化チタン(TiO2)の1種であるTi2O3で発現する金属絶縁体転移の制御と応用を目指して薄膜合成と電子物性測定を行なっている。本年度は、金属絶縁体転移の制御手法として結晶のサイズに着目して研究を行った。Ti2O3ナノ粒子を用いた過去の報告を参考に、薄膜のグレインサイズを成長温度で制御することで、コランダム型構造のc/a比を変調した。低温で合成した薄膜では、バルク体に比べて非常に大きなc/a比を持ち、電子物性では金属絶縁体転移を抑制し、全温度領域で金属伝導を発現することを見出した。一方で、高温で成長した薄膜ではバルク体に近いc/a比を持ち、転移温度は低いもののバルク体と同様に金属絶縁体転移が観測された。このグレインサイズによるTi2O3の電子物性の違いを説明するため、様々なc/a比を持つTi2O3を仮定し、密度汎関数法によるフェルミ準位近傍の電子状態計算を行った。バルク体での絶縁体的な基底状態を再現するため電子相関を導入し、モットギャップが実験と一致するようにその値を調整した。その後、同一の電子相関を用いてc/a比のみを変化させて電子状態を比較した。その結果、相転移を発現する臨界c/a比が存在することが明らかになり、その値がバルクと薄膜の金属絶縁体転移を良く説明することを見出した。これらの結果は、Ti2O3薄膜ではバルク体と異なる電子物性を示すが、それは初期状態で薄膜がバルク体と異なるc/a比を取るためであり、c/a比を軸とすると薄膜もバルク体と同様に金属絶縁体転移が理解できることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ti2O3の金属絶縁体転移の制御手法として、成長温度によるグレインサイズを見出したことは大きな進捗であった。一方、計画にあった放射光施設での構造・電子状態研究は時勢により非常に制限されてしまった。両者を勘案して全体の研究進捗としては、概ね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和3年度は、現在までの進捗状況から考えて、グレインサイズによる物性制御と薄膜の構造・電子状態解析の2つを中心に進め、本研究のまとめを行う。前者の成長温度による制御において、高温薄膜では膜厚に面直のグレインサイズが制限されることをX線回折により明らかにした。合成温度の結果変調するという間接的なサイズ制御ではなく、膜厚による直接的なサイズ制御が可能である。よって、同一合成条件で膜厚のみ異なるTi2O3薄膜も物性が変調できると期待される。特に、非常に厚い薄膜でバルク体と同様の450 Kでの金属絶縁体転移を発現できるか、極薄膜で金属伝導を発現できるか、の観点で薄膜合成と物性観測を行う。
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