研究課題/領域番号 |
19H02591
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
谷中 淳 筑波大学, 数理物質系, 研究員 (80400638)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノ顕微技術 / 生体測定 / ラマン分光 / ナノプローブ |
研究実績の概要 |
細胞表面をナノレベルで観察可能で、弾性率を測定可能な原子間力顕微鏡と、無染色で細胞内分子の同定や化学変化を追跡できる近赤外励起ラマン分光を組み合わせた複合型顕微鏡を開発し、局所弾性率と探針増強ラマン分光による局所化学変化を同時に測定することで、一連のガン細胞の壊死プロセスを解明することを目的とし、原子間力顕微鏡を用いたガン細胞の弾性率測定と近赤外励起ラマン分光装置の開発を行った。 ガン細胞の弾性率測定では、光線力学療法を行う前後でのガン細胞の弾性率変化を測定し、ガン細胞が壊死直前までの弾性率変化と細胞内の活性酸素種と活性酸素量の蛍光測定と比較することで、細胞内で進行している反応機構を推測できるようになった。 近赤外励起ラマン分光装置の開発では、現有設備であったフェムト秒レーザーを用いたシングルビームCARSを試み、低波数のラマンスペクトルを取得することができた。このラマン分光装置を用いて、生体分子であるグルタチオンのラマンスペクトルを測定し、グルタチオンの酸化によるラマンスペクトルの時間変化を測定することができた。また、ラジアル偏光コンバータを導入し、銀および金を蒸着したガラスマイクロピペットにグルタチオンを塗布したものを試料として探針増強効果を測定した。シングルビームCARSで観察されたピークは増強され、それ以外に観察されなかったピークが観察できるようになり、探針増強効果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度に計画していたラマン分光装置の開発、原子間力顕微鏡と組み合わせた複合型顕微鏡の開発、および探針増強効果の測定を行うことができた。細胞のラマンマッピングについては、レーザーの波長や出力の問題があり、現状では実現できていないが、レーザーの変更と原子間力顕微鏡に取り付ける光学フィルターの選定で対処できる。 2020年度に計画していたピコ秒レーザーを用いたCARSの測定を、現有設備のフェムト秒秒レーザーを用いたシングルビームCARSとすることで実現できたため、2019年度の計画と合わせて、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
フェムト秒パルスレーザーを用いたシングルビームCARSの整備を行い、生体分子のラマンスペクトルを取得できたので、開発したラマン分光装置をスーパーコンティウム光源に改良し、広帯域な近赤外ラマン分光装置へと発展させる。 スーパーコンティウム光源によるラマンスペクトルが取得できたところで、ガン細胞観察の前段階としてグルタチオンなどの単離された生体分子のラマンスペクトルの取得を試みる。試料の濃度とラマンスペクトルから細胞観察に必要な信号強度を見積もり、ラマン分光装置を改良する。 昨年度に銀を蒸着した後、金を蒸着したマイクロガラスピペットを用いたところ、探針増強効果が得られたため、同条件で作製した探針増強用カンチレバーで探針増強効果の観察を行う。それと同時に、原子間力顕微鏡の改良、探針増強ラマン分光用の探針作製装置の製作および探針増強用の光学設計を行う。 改良した広帯域近赤外ラマン分光装置で得られた生体分子のラマンスペクトルと比較し、探針増強効果の有無から探針作製装置と光学設計の改良を行う。
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