液中で動作する周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)により、原子・分子レベルでの表面構造、水和・溶媒和構造、電荷分布が可視化できるようになってきたが、これまでの液中FM-AFM計測は全て保存的相互作用力の計測に基づいているため、表面位置の決定や接触力・水和力・電気二重層力の区別が困難であった(一般に、AFM探針と試料との間にはたらく相互作用は保存的相互作用と散逸的相互作用に分けられる)。 本研究課題では、液中AFMにおける散逸エネルギーの測定精度を高め、保存力と散逸力を分離、相互に解析し、モデル試料を対象に散逸マッピングを行い、試料の構造・水和・電荷・機械的特性(機械的安定性や粘弾性)との相関を議論する。また、化学修飾した探針を用いて生体分子間の特異的相互作用力を計測し、結合・破断に伴うエネルギー散逸の計測を行う。 ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)がその水溶液中でグラファイト基板上に形成する半ミセル上でフォースマッピング実験を行い、探針先端に同様に形成されたミセルとの融合・分離の過程を明らかにした。また、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)についても同様の実験を行い、散逸エネルギー測定から、半ミセル領域および単層膜領域の粘弾性を定量的に測定することに成功した。 一方、高度好塩菌の紫膜のタンパク質バクテリオロドプシンのKCl水溶液中でフォースマッピング実験を行い、局所的な水和構造の存在を明らかにした。
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