本課題における重要な実験要素である全角傾斜トモグラフィー試料ホルダーについては、昨年度までに作製しその性能確認を行った。当該年度はこのホルダーに試料を取り付けるための技術確立に取り組んだ。高い再現率で100-1000nmサイズの試料をピックアップして試料ホルダーに取り付ける手順を確立するため、試料の初期設置方式、試料を付着する金属ニードルの寸法やデポに用いる元素、などを最適化した。また、物質形状だけでなく密度まで正しい三次元再構成すなわち「密度定量トモグラフィー」の実現手順は前年度までに概ね確立したため、各種材料への適用や関連するトモグラフィー技術との融合に取り組んだ。まず前年度までの研究により暗視野STEM像の厚さ変化に伴う強度変化曲線を与える関数が判明したため、この曲線の特徴的な形状と、関数が含むパラメータの対物絞りサイズ依存性とを考慮した応用計測に取り組んだ。成果として、従来手法では全く観察できなかったAl製磁気ディスク基板中のめっき欠陥の立体観察に成功した。また電子顕微鏡用高速カメラを用いて従来よりも二桁短い時間で計測可能な高速TEMトモグラフィーとの融合に取り組み、アモルファス材料(ラテックス球)と結晶性材料(ZnO粒子)の高速三次元計測に適用することに成功した。一方、これまで見落としていた手法上の欠陥、すなわち立体形状試料のエッジ近傍に出現する素性不明のTEM像コントラストが三次元再構成に与えるアーティファクトについて検証した。このコントラストの出現条件を様々なサイズの対物絞りとエネルギーフィルターの使用によって検証し、モデル化した理論計算によって再現することに成功し、電子線の弾性/非弾性多重散乱によって顕著化する色収差効果であることを解明した。この結果に基づき、径の小さな対物絞りの使用またはエネルギーフィルターの使用がこの問題解決に有効であることを導き出した。
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