研究課題/領域番号 |
19H02605
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山口 尚秀 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (70399385)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ダイヤモンド / 電界効果トランジスタ / 移動度 / 量子振動 / 六方晶窒化ホウ素 / 磁気抵抗 |
研究実績の概要 |
六方晶窒化ホウ素(h-BN)をゲート絶縁体とするダイヤモンド電界効果トランジスタ(FET)の低温での磁気抵抗特性を調べ、量子振動(シュブニコフ・ドハース振動)の検出に成功した。ゲート電圧に依存する振動周波数をもつ明瞭な量子振動の検出は、ダイヤモンドにおいてこれがはじめてである。磁気抵抗ρxx(B)とともにホール抵抗ρyx(B)にも振動が見られた。ρyxの振動の位相はρxxと180°ずれており、残念ながらまだ量子ホール効果領域には至っていないが、さらなる移動度の向上によって量子ホール効果の観測が期待できる結果であった。ρxxとρyxの振動の温度および磁場依存性は、標準的な二次元系の量子振動の理論によってよく説明されることがわかった。この結果は、Phys. Rev. Mater.誌にRapid Communicationとして掲載された。 一方、このFETの室温での移動度は300~400 cm^2/Vs程度であるが、移動度を制限している要因を探るため、理論計算による移動度の評価を行った。シュレーディンガー・ポアソン方程式によってダイヤモンド表面のサブバンドへのキャリアの分布を求めたのち、界面荷電不純物、背景荷電不純物、表面粗さ、およびフォノン散乱を考慮して移動度を計算した。その結果、ダイヤモンドとh-BNの界面に存在する荷電不純物が移動度を制限している主要因であることがわかった。比較的高いキャリア密度では、表面粗さ散乱の影響も効いていることがわかった。ダイヤモンドFETの移動度についての理論計算はこれまでされておらず、本理論計算は今後の移動度向上のための指針を得る上で重要な意義をもつ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイヤモンドは、ワイドバンドギャップや、高絶縁破壊電界、高熱伝導度などの優れた特性をもち、次世代半導体材料として期待されている。本研究ではグラフェン等の2次元物質の研究手法を利用して、ダイヤモンド電界効果トランジスタ(FET)の特性、特に移動度を飛躍的に向上させる。具体的には、これまで主にAl2O3などのアモルファスの酸化物が使われてきたゲート絶縁体として、単結晶の六方晶窒化ホウ素(h-BN)を利用する。高品質なダイヤモンド/h-BNヘテロ界面の形成によって高移動度化を追求し、高周波増幅器・省電力高速スイッチング素子の実現および新規量子物性の探索を行う。現在までに、h-BNをゲート絶縁体としたダイヤモンドFETにおいて、ゲート電圧に依存する明瞭な量子振動の検出という成果を得た。荷電不純物が少なく未結合手のない平坦な表面を得ることができるというh-BNの特徴を活かして、これまでにない高いキャリア移動度をダイヤモンドFETにおいて実現できたことがこの成果につながった。移動度の制限要因についても理論的な観点から検討を行い、論文としてまとめた。ダイヤモンドとh-BNの界面に存在する荷電不純物が移動度を制限する主要因であることを見出した。さらに、界面荷電不純物密度を低減するためのFET作成手法の構築を行い、実際にFETの作製・評価を進めた。以上の状況から、おおむね研究は順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、ダイヤモンド/六方晶窒化ホウ素(h-BN)ヘテロ界面を有するダイヤモンド電界効果トランジスタ(FET)を作製し、その界面の高品質化を追求する。h-BN単結晶をスコッチテープによって劈開し、ポリマーシートに転写ののち、光学顕微鏡のもとで位置及び結晶方位を合わせて、ダイヤモンド表面に貼り合わせる。表面準位の低減およびp型表面伝導の形成のためダイヤモンド表面は水素終端化する。不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で、ダイヤモンド表面に劈開したh-BNを貼り合わせる。その後、ゲート電極の形成などを行い、FET構造を完成させる。なお、ホール効果測定による移動度の正確な評価のためにホールバー構造のFETを作製する。特に今後は原子レベルで平坦な表面をもつ高品質なダイヤモンド上へのFETの作製に注力する。キャリア密度が比較的高い領域では、荷電不純物散乱に加え表面ラフネス散乱も移動度を低減させる要因となるためである。原子レベルで平坦なダイヤモンド表面は、ドライエッチングによるメサ構造の形成および低メタン濃度でのマイクロ波プラズマ化学気相合成によって形成する。表面の平坦性は走査型プローブ顕微鏡で確認する。作製したFETは、室温において基本的な特性(伝達特性および出力特性など)の評価を行う。また、ホール効果測定によって、キャリア密度および移動度のゲート電圧依存性を調べる。無冷媒冷凍機を用いて1.4 Kまでの低温、9 Tまでの磁場中における特性評価も行う。優れた特性を示すFETについては、さらに希釈冷凍機を用いて30 mKまでの低温、17.5 Tまでの強磁場までの測定によって新規量子物性の探索を行う。
|