研究課題/領域番号 |
19H02610
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
清水 祐公子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (30357222)
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研究分担者 |
入松川 知也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (00828056)
稲場 肇 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究グループ長 (70356492)
大久保 章 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (30635800)
中野 享 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究グループ長 (20357643)
浦野 千春 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究グループ長 (30356589)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 気体温度 / 分子 / デュアルコム分光 / 光周波数コム / 熱力学温度 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、我々が提案した回転状態分布温度計測(RDT)により、熱力学温度測定システムを世界に先駆けて構築し、新しい温度の定義に基づいた熱力学温度を決定し、実用的な温度標準として確立することである。 RDT法においてはこれまでに120秒の測定で1 K以下の不確かさが得られているが、この不確かさの主な要因はスペクトルのフィッティング残差である。これは測定で得られたスペクトルが不完全であることを意味しており、この具体的要因としては、①光コムスペクトルの安定性が十分でなく、時間的に変化すること、②測定対象である気体の温度が精密に制御されていないこと、の2つに集約できるとして、2019年度は①の対策を実施した。 具体的には、信号コムと局部発振コムの2台の光コム自体のスペクトルを安定化すること、2台の光コムから受光器に至る光路を機械的に安定化すること、そして端面反射による干渉縞を排除することが必要であり、まずは、最も影響が大きい要因①を解決することとした。典型的なファイバー型の光周波数コムは非偏波保持ファイバーで構成されているため、環境外乱等の影響で偏波が変動するが、デュアルコムは2台の光コムの干渉信号であるため、偏波の揺らぎが干渉信号の揺らぎに直結する。偏波保持型コムは偏波方向を保つため、外乱によるスペクトルの変動を低減でき高安定なスペクトルが期待できるとして、我々は、光コム自体のスペクトルの安定化するために、光コムを構成するモード同期ファイバーレーザーに偏波保持ファイバーを適用し、偏波保持出力型の光周波数コムを2台製作し、中心波長1570 nmで光コムの低雑音化に十分と考えられるスペクトルの広帯域化を実現した。現在、2台の光コムスペクトルの安定度の評価を行っている。並行して光学系の機械的強度については、空間・光ファイバー結合部のモノリシック化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度はデュアルコムコムスペクトルの高安定化を実現するため、偏波保持型の光コム2台の開発、およびそれらを精密に位相同期する回路等の作製を行い、デュアルコムとして動作することを確認した。 開発した偏波保持型コムは、1台がモード同期ファイバーレーザ(オシレータ)の出力以降を偏波保持ファイバーで構成したものであり、モード同期機構としては非線形偏波回転に基づく。もう1台はオシレータを含め全て偏波保持ファイバーで構成したもので、モード同期機構は非線形増幅ループミラーを利用したものである。どちらの偏波保持型コムも、ファイバー長の調整によって分散調整を行い、コムの低雑音化に十分と考えられる広帯域特性(オシレーター出力)を実現した。さらに、開発した2台の偏波保持型コムが高精度に位相同期可能であり、デュアルコムとして問題なく動作することを確認した。 デュアルコム分光において、より広帯域あるいは長時間の測定を行うためには2台のコムの相対線幅が十分小さい必要がある。今回開発した2台の光コムを位相同期させ、相対線幅の評価を行った結果、相対線幅は1 Hz(使用した測定器の測定限界)以下であることが確認できた。 開発した2台の偏波保持型コムを用いて広帯域・長時間のデュアルコム測定が可能であることを示す結果が得られたため、この偏波保持型デュアルコムの安定性評価として、非偏波保持型デュアルコムの安定性との比較測定を実施している。その後、デュアルコム分光による温度測定へと進む予定であり、おおむね当初の計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今回開発した偏波保持型デュアルコムと非偏波保持型デュアルコムのスペクトル安定性比較の評価を実施後、デュアルコム分光による温度測定へと進む。これと並行して、低温用恒温セルおよび高温用恒温セルの設計・製作・性能評価を行う予定である。これは研究の概要に記載した、スペクトルの不完全性の要因、②「測定対象である気体の温度が精密に制御されていないこと」、を改善するためである。測定対象となる気体の温度を数十 mKレベルで精密に制御するには、その温度域における恒温槽が必要である。このため、現行の国家非標準と熱力学温度の測定対象分子を一体化するための新たな恒温セルについて、温度範囲―160℃~50℃の低温用、および30℃~500℃の高温用にわけて設計・製作し、各温度範囲にあわせた分子種ごとの解析方法を確立する予定である。 さらに、測定対象分子をアセチレン、二酸化炭素、メタン等に拡大し、温度範囲を広げるために、分子ごとの解析方法の開発に着手する。
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