研究課題/領域番号 |
19H02612
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
矢口 裕之 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (50239737)
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研究分担者 |
秋山 英文 東京大学, 物性研究所, 教授 (40251491)
高宮 健吾 埼玉大学, 研究機構, 専門技術員 (70739458)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 太陽電池 / アップコンバージョン発光 / 第一原理計算 / 電子局在状態 |
研究実績の概要 |
高効率中間バンド型太陽電池への応用が期待される希釈窒化物半導体の中で、GaPN混晶は、中間バンドに対する一般的な期待とは異なり、電子局在状態を介した2段階光吸収による顕著なアップコンバージョン発光が観測される。この現象を太陽電池の効率向上に応用することを目的として、電子局在状態を有効に活用する窒素組成変調構造を設計するためにGaPN混晶をモデル化したスーパーセルに対して第一原理計算を行った。様々な窒素原子配置をもつスーパーセルに対して歪緩和構造を求め、さらに電子構造、電子密度分布、光学定数などを求めた。窒素原子が〈110〉方向に配列した構造についての計算結果から、伝導帯の底はΓ点に位置しており、直接遷移型になっていることが確かめられたが、伝導帯の底のスペクトル重みは他のバンドと比べるとあまり大きくないこともわかった。伝導帯の底近傍に対応する電子密度分布を求めたところ、〈110〉方向に電子分布が集中している様子がわかった。〈110〉方向への電子分布の集中は他の窒素原子配置でも共通して見られる特徴であった。また窒素原子配置が異なると、間接遷移型になる場合があり、バンドギャップが大きく異なることから電子局在状態の形成には局所的な窒素原子配列が強く影響することが明らかになった。また、バンドギャップよりも低エネルギーの励起(BGE)光とバンドギャップよりも高エネルギーの励起(AGE)光を用いた、2波長励起フォトルミネッセンス測定によってGaPN混晶におけるアップコンバージョン発光について調べた。AGE光にBGE光を加えることで発光強度増強が確認された。興味深いことに、BGE光の追加によって一旦発光強度が減少したのち、増加に転じることがわかった。さらにチタンサファイアレーザーを励起光源とする測定によってアップコンバージョン発光に関わる電子局在状態のエネルギー分布に関する知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、電子局在状態を有効に活用できる窒素組成変調構造を設計するために第一原理計算を行って検討した結果、様々な窒素原子配置において共通して見られる〈110〉方向への電子分布の集中という特徴が明確になり、窒素原子が〈110〉方向に配列した構造が2段階光吸収を介する電子局在状態を形成するために有望であることがわかった。これによって今後の窒素組成変調構造の設計および作製にとって重要な指針が得られた。また、第一原理計算による検討に加えて、2波長励起フォトルミネッセンス測定を用いてGaPN混晶におけるアップコンバージョン発光について調べた結果、AGE光にBGE光を追加することで一旦発光強度が減少したのち、増加に転じることがわかった。この現象はレート方程式を解くことで説明が可能であり、電子局在状態を介した2段階光吸収を太陽電池効率向上に用いる際には複数の吸収遷移のバランスを考慮することが重要であることが明らかになった。またアップコンバージョン発光に関わる電子局在状態を調べるためにチタンサファイアレーザーを励起光源として用いて実験を行った結果、電子局在状態は少なくとも1.4 eV以下まで分布していることがわかった。このように今後の窒素組成変調構造の設計および作製に役立つ知見が得られており、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 窒素組成変調構造の設計に向けた第一原理計算による電子構造解析 これまでに行ってきた第一原理計算による検討を、より窒素組成の低いスーパーセルに対して進めるとともに、実験結果との比較を定量的に行えるように電子構造や光学定数を求める際には改良型Becke-Johnson交換テンシャルを用い,スーパーセルによって生じたゾーンの折り返しを,スペクトル重みを考慮して展開する。 (2) 分子線エピタキシャル成長による窒素組成変調構造の作製 第一原理計算によって得られた知見を踏まえて、分子線エピタキシャル成長によって窒素組成変調構造を作製する。具体的には、(001)基板あるいは(111)基板を用いて、窒素δドーピングを行うことによって成長面内に窒素を多く分布させ、窒素原子を〈110〉方向に沿って意図的に多く配列させることによって電子局在状態密度を増加させる。 (3) 多波長励起フォトルミネッセンス測定による電子局在状態を介した2段階光吸収の評価 分子線エピタキシャル成長によって作製した窒素組成変調構造における電子局在状態を介した2段階光吸収を評価するために、2種類のBGE光を用いてアップコンバージョン発光を測定する。また、一方のBGE光の波長を可変として励起スペクトルを測定することで電子局在状態のエネルギー分布について調べる。さらに、GaP基板と格子整合したGaAsPN混晶についてアップコンバージョン発光測定を行い、格子整合によるミスフィット転位抑制の効果について検討を行う。 (4) レーザー照射による欠陥の増殖過程の検討 高パワー密度のレーザー照射に伴うフォトルミネッセンス強度の変化を調べることによって、希釈窒化物半導体をデバイス応用した際に、動作中に生じる可能性のある欠陥の増殖過程について検討しデバイス信頼性の向上につなげる。
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