研究課題
次世代省エネパワーデバイス、量子応用デバイスで新たに研究の進むダイヤモンドにおいて「欠陥」が重要課題に浮上している。軽元素のためX線が深く侵入する事、また高対称性結晶のため禁制反射が多く、用いる回折ベクトルが極めて限られる事の2点に本質的な問題があり、欠陥が詳しく同定できていない。例えばパワーデバイス実現に最重要であるのがキラー欠陥の同定と低減であるが、現状個々の転位の同定が出来ていないために、デバイスへの影響が不明である。本研究では、放射光X線トポグラフィを駆使して、深さ方向情報の取得と幾何解析による欠陥解析手法の確立と、欠陥の同定、さらには欠陥の低減、無害化を行うことを目的に、研究を実施している。本年度は放射光施設の単色X線を用いたX線トポの反射モードを用いて観察を行った。三次元情報が二次元フイルムに転写される幾何学的解析を行った。実際に、<404>の4方向のXRT像上で、<111>、 <101>、 <121>、 <211>等立方晶の結晶において発生しやすい転位との比較検討を行い、gb解析を併用して、転位の種類を決定することが出来た。現状これらに分類されない転位も多く、特にCVDにより成長した結晶に関して同定が困難なものも多く、今後の課題である。ダイヤモンド薄膜成長に関して、Bを高濃度に含む高温高圧合成ダイヤモンド(100)基板上へのドリフト層としての低濃度Bドープ薄膜成長を行った。結晶全面にわたって平滑性に優れたダイヤモンド薄膜成長に成功した。一方、成長前の研磨表面には見られなかった積層欠陥に特徴的な表面モルフォロジーが[110]方向に伸びた線状の形態として現れた。ショットキーバリアダイオードを作製したところ、理想因子や逆方向特性での漏れ電流に大きなバラつきがみられ、基板から薄膜中に伝搬している転位などの様々な欠陥が存在することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ダイヤモンドは軽元素で構成されるため、Si、SiC、GaNなどの半導体材料と異なり、一桁近く深く(概ね300~800um)結晶中にX線が入射する。また対称性の最も高い空間群立方晶に属し、禁制反射が多く上記材料と比べて観察に用いる事の出来るgベクトルが極端に少ない。この2つの本質的な背景の下、未だ転位低減が未達のため、転位が一度に多数観察され、また観測方向gベクトルによって重なりが変わり、欠陥ベクトルの判定が極めて困難である。19年度は放射光施設の単色X線を用いたX線トポグラフィを、<404>ベクトルを用いて、反射モードを用いて観察を行った。三次元情報が二次元フイルムに転写される幾何学的解析を行った。具体的には、発生しやすい転位の開始点の平面と終点の平面の二つを考え、その直上または直下の仮想点を仮定した幾何をベースに、入射角・入射方向及びブラッグ角の変数として、三次元の転位が二次元フイルムに投影される位置を計算した。実際に<404>のXRT像上で、<111>、 <101>、 <121>、 <211>など立方晶の結晶において発生しやすい転位方向との比較検討を行ったところ、多くの転位の方向を同定することができた。また併せて<404>の4つの中で消滅が観測できる場合には、gb解析からバーガーズベクトルが決定でき、転位の種類を決定することが出来た。既知の刃状、30°、54°、60°などの転位である。現状ではこれらに分類されない転位も多く、特にCVDにより成長した結晶に関しては、同定が困難なものも多く、今後の課題である。ドリフト層であるダイヤモンド薄膜成長において平滑性に優れたダイヤモンド薄膜成長についておおよその方針が得られた。またSBD特性からも欠陥評価が可能であることが示唆されたことから、これらの項目については当初の計画以上に進展しているといえる。
3項目に分けて、本研究を推進する。20年度の研究計画は以下である。A) 欠陥解析手法確立:軽元素結晶ではX線が深く入射する事と、ダイヤモンドのように対称性がよい結晶では禁制反射が多く、用いる回折ベクトルが極めて少ないため、欠陥ベクトルの同定が困難であった。これに対して、上記記載のように19年度は、X線トポグラフィ(反射モード)を用いて観察を行った。gベクトル<404>について、三次元情報が二次元フイルムに転写される幾何学的解析を行い、転位の方向、バーガーズベクトルを同定し、転位の種類を決定できた。これを受けて、20年度は、対象方向を広げると共に、またc軸深さの情報を同定し、転位の終点の位置を探るなど、欠陥解析研究の展開を行う。また計測のgベクトルを広げて同様の検討を行う。B) 欠陥同定:平衡状態HPHT合成と非平衡状態によるCVD合成、ソースの異なる高濃度p型ドーピングなど、様々な材料について欠陥の違いを解析し、合成法と欠陥の関連について解析する。不純物ドーピングの影響について研究も実施する。また蛍光、燐光、CLの観察手法で得た情報との比較を行い、既知の発光欠陥との対応関係を明らかにし、欠陥種類を同定する。これは長い期間に及ぶ先人の欠陥研究の中で、不明とされていた発光欠陥と結晶欠陥の対応関係を明らかにする重要なステップである。また縦型パワーデバイスとしてショットキーダイオードを欠陥上に選択的に作製し、各種欠陥のデバイスへの影響を電気的に調査し、致命欠陥などの解析を行う。C)欠陥終端手法開発:転位の発生と終端は、転位や積層欠陥などが、お互いに相互作用していることが推測され、20年度は、まず現状のHPHT及びCVD結晶の解析を実施し、現状を探る。転位密度の異なる基板を用いてこれらの上に、低濃度ボロンドープ薄膜を成長し、欠陥評価を実施する。
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Diamond and Related Materials
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