遷移金属酸化物は代表的な強相関材料系であり、電荷・軌道・スピンが織りなす複雑な相互作用によって多彩な特性が出現することが明らかにされている。一電子近似が良く成り立つ従来の半導体とは異なり、多量の電子によって形成される電子相が遷移金属酸化物の物性発現の起源となる。電子相が転移する現象である電子相転移の代表例が金属絶縁体転移である。遷移金属酸化物が表す多様な特性の理解に繋がるものとして、金属絶縁体転移の原理を明らかにしようとする努力がなされている。本研究では、ルチル型酸化物における金属絶縁体転移の発現原理の解明とその制御を目的とする。当該年度は以下の項目を中心に研究を進めた。 1.パルスレーザー堆積法によりエピタキシャルNbO2薄膜を作製した。基板にはルチル構造を有するTiO2とMgF2単結晶を用い、ターゲットにはNb2O5焼結体を使用した。幅広い温度範囲でエピタキシャルNbO2薄膜が得られることを確認した。 2.得られたエピタキシャルNbO2薄膜の化学組成・結晶構造・物理特性を精査した。X線光電子分光による組成分析により、薄膜の化学組成がNbO2であることを確認した。組成標準試料にはNbO2薄膜を大気中加熱処理したNb2O5薄膜を使用した。角度分解ラマン散乱分法測定により、NbO2薄膜の低温絶縁体相の結晶構造の同定を行った。また、分光エリプソメトリーにより、NbO2薄膜の屈折率・光学電導度を決定した。NbO2のバンドギャップは、VO2のそれより大きい約0.7eVであることが判明した。また、赤外領域における消衰係数についても、VO2よりNbO2の方が小さいことが明らかとなった。
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