遷移金属酸化物は電子相関が重要な役割を果たす材料系であり、電荷・軌道・スピン・格子が織りなす複雑な相互作用によって超伝導、巨大磁気抵抗効果などの多彩な特性が出現することが知られている。一電子近似が良く成り立つ従来の半導体とは異なり、多量の電子によって形成される電子相が遷移金属酸化物の物性発現の起源となる。電子相転移の代表例が金属絶縁体転移である。そのため、遷移金属酸化物が表す多様な特性の理解に繋がるものとして、金属絶縁体転移の原理を明らかにする努力がなされている。本研究では、ルチル型遷移金属酸化物における金属絶縁体転移の発現原理の解明とその制御を目的とする。当該年度は以下の項目を中心に研究を進めた。 1.MgF2基板上に作製したエピタキシャルNbO2薄膜の電気抵抗率は、相転移温度(約800℃)を跨いだ場合に不可逆な反応を示す。その原因を解明するため、電気測定後の試料についてX線光電子分光による組成分析を行った。その結果、NbO2薄膜中にMgO相が生成していることが判明した。800℃以上の高温で基板から薄膜中へのMg拡散が起こること示している。転移温度における温度履歴の有無を議論するためには、Mg拡散への対策が必須となる。 2.エピタキシャルNbO2薄膜の角度分解ラマン散乱分光を室温で実施した。NbO2は低温の絶縁相であることを確認している。金属絶縁体転移に大きく寄与していると考えられるNb二量体(Nb-Nb)モードを同定することに成功した。Nb-Nbのstretchingモードよりtiltingモードの方が大きな散乱強度を示すことが明らかとなった。この結果は、金属絶縁体転移の際、二量体形成の要因となるc軸方向への変位に加えて、Nbイオンのab面内への変位が大きいことを示唆している。
|