研究課題/領域番号 |
19H02623
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
石井 順久 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 主幹研究員(定常) (40586898)
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研究分担者 |
篠原 康 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (90775024)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 赤外レーザー開発 / 高強度物理 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
本年度、研究代表者は、分光計測系に必要である赤外光源開発を行った。イッテルビウム増幅器を基本レーザーとして、長波長の中赤外光源を開発した。光パラメトリック増幅器を用いて、基本レーザーの1030 nmの波長を波長変換で3000nmに変換した。エネルギー効率としては、量子効率を鑑みて、5パーセント(波長平均)を達成した。基本レーザーのパルス幅は160 fsであり、赤外光源のパルス幅は若干短い、150fs以下を達成している。赤外光源に関してのもう一つの要求として、サブサイクルプローブを行うために、電場波形が毎ショット一定でなくてはいけない。このため、広帯域光のスペクトル内での差周波発生によって種光を得る研究を行った。基本レーザーの一部を分けて集光し、集光点近くに薄い石英のガラス板を1センチメートル程度の間隔で置くことにより、効率的に広帯域化が可能となった。薄プレートスペクトル広帯域化によって、イントラパルス差周波発生が可能になり、波長3000nmを中心とした種光を得た。光パラメトリック増幅のための非線形結晶としてはPotassium Titanyl Arsenate(KTA)を用いた。 研究分担者は、密度汎関数理論(DFT)に代表される第一原理計算の情報を使い、物質固有の性質を取り込みつつ、高強度電場に駆動される電子波束の実時間シミュレーション法の開発を行った。DFTで求めた対象固体の物質固有の性質を基本的な情報として、電場の時間波形を入力に、誘起電流(あるいはその時間積分としての誘起分極)の時間波形を出力とし、誘起電流のフーリエ変換から放射電場のスペクトルの情報、入射電場と誘起分極の比と位相から複素分極率、および電場時間波形に対する誘起分極から過渡複素分極率型といった実験に対応する量を評価するための枠組みを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の計画は、研究代表者については、分光計測系に必要である赤外光源開発であり、イッテルビウム増幅器を基本レーザーとして、長波長の中赤外光源を開発を予定通り、終了した。光パラメトリック増幅器を用いてた波長変換で3000nmに変換し、エネルギー効率としては、予想を超える5パーセント(波長平均)を達成した。赤外光源のパルス幅も基本レーザーより短いパルス幅を達成している。 赤外光源に関してのもう一つの要求である、電場波形の一定性は、広帯域光のスペクトル内での差周波発生によって種光を得る研究が成功し、効率的に広帯域化が可能となった。イントラパルス差周波発生が可能になり、波長3000nmを中心とした電場波形一定の種光を得ることができ、計画通り研究が進んでいる。 研究分担者については、密度汎関数理論(DFT)に代表される第一原理計算の情報を使い、物質固有の性質を取り込みつつ、高強度電場に駆動される電子波束の実時間シミュレーション法の開発に成功した。DFTで求めた対象固体の物質固有の性質を基本的な情報として、電場の時間波形を入力に、誘起電流(あるいはその時間積分としての誘起分極)の時間波形を出力とし、誘起電流のフーリエ変換から放射電場のスペクトルの情報、入射電場と誘起分極の比と位相から複素分極率、および電場時間波形に対する誘起分極から過渡複素分極率型といった実験に対応する量を評価するための枠組みを構築し、今年度の研究開発のための基盤となる枠組み構築に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、実験研究については、中赤外電場の半周期(約17 fs)より十分短い、持続時間5 fsの超高速光プローブを発生させ、中赤外光と同期させる。これらの光パルスを、相対遅延をつけて照射し、変化を調べることで物質内部の状態を計測する。物質における極端な非線形光学効果を引き起こし、その応答について計測する。 中赤外光で励起した際の分極輻射を5 fs光プローブで電場サンプリングを行い、分極輻射の時間波形から輻射のタイミング、エネルギー構造が決定する。 理論研究としては、第一原理計算で求めた対象固体の物質固有の性質を基本的な情報として、電場の時間波形を入力に、誘起電流(あるいはその時間積分としての誘起分極)の時間波形を出力とし、誘起電流から実験結果を理解する。誘起電流のフーリエ変換から放射電場のスペクトルの情報、入射電場と誘起分極の比と位相から複素分極率、および実験のポンプ―プローブ分光を模した電場時間波形に対する誘起分極から過渡複素分極率型といった実験に対応する量を評価する。実験で使われたものと同じ電場波形を使うことで、実験を精密にシミュレートし、シミュレーション結果を詳細に解析することで電子波束の理解を深める。特に電子ダイナミクスがバンド分散に代表される電子状態を通じてどのように理解できるのかについての解析に取り組む。
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