研究課題/領域番号 |
19H02624
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
梶川 浩太郎 東京工業大学, 工学院, 教授 (10214305)
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研究分担者 |
下条 雅幸 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (00242313)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メタマテリアル / クローキング |
研究実績の概要 |
クローキングとは、物体(対象物)を特定の媒質で覆うことにより全体を不可視化する光学技術である。本研究ではこれまで理論と計算でしか議論されてこなかった光学周波数でのクローキングを、実験により実証する。そのため、解析的な計算を基に実在物質を使ったクローキング条件を提案し、次に、数値計算による計算機実験を行う。さらに、実際にクローキングが起こる構造を実際に作製し、実験でクローキングを観測する。2つのクローキング方法について、研究を行う。 本研究では、円柱構造に対して2つのクローキング手法を研究する。1つめは対象物の周りを屈折率分布をもつ媒質で覆い、蜃気楼のように 光を迂回させて対象物を不可視化する方法(クロークA)である。この方法は、どのような物質でもクローキングでき、サイズの制限もない。クローキング可能な周波数も広くとれるという利点もある。もう一つは対象物の分極を打ち消す方法(クロークB)である。打ち消された結果、分極がゼロとなり、散乱や反射が生じず不可視化される。クローキング対象物に対応するクローキング媒質を準備する必要があるが、構造が単純なため光学周波数でも比較的容易に実現が可能である。 2019年度は、主にクローキング構造の検討を行った。ミー理論を用いて、実験的に実現が可能な実在物質を用いた構造を導き出した。クロークAでは、構造設計には多数のパラメータの決定が必要である。よって、ニューラルネットワークを用いて最適なパラメータ群を求める方法を確立した。クロークBでは、パラメーターを網羅的に探索することにより、実験的に実現が可能なパラメータを決定することに成功した。 実験では、直径が70nm、長さが20μmの銀の円柱をSTMの探針に固定する方法を確立した。誘電体や金属の薄膜を均一に蒸着するため、既存の蒸着装置にモーターを使った回転機構を設置して、試料の作製ができるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初ミー理論のみで光学設計を行う予定であり、その準備をすすめてきた。しかし、適切な光学設計には、膨大なパラメーターを検討する必要があり、現在の計算機リソースでは、数ヶ月~数年の計算時間が必要であることがわかった。そのため、ニューラルネットワークを用いて光学応答を機械学習することにより、最適なパラメータ群を求める方法を確立した。データーセットを構築するのに1ヶ月ほどの時間を要したが、GPUを実装した計算機を用いることにより機械学習や計算は極めて高速に行うことができ、数時間で必要なパラメーターを得ることができた。また、所望のスペクトルから構造を予測する方法についても検討を行い、いくつかの手法を提案することに成功した。これは、これまでにない画期的な手法であり、今年度の成果として速報誌に論文を出版している。 実験装置の作製には苦労があったが、試料作製や測定に耐えうる精度で銀の円柱をSTMの探針に固定する方法を確立した。STM探針に対して曲がらないように固定することが難しかったが、試行錯誤の結果それを達成することができた。蒸着で得られた構造について、電子顕微鏡観察や元素分析などを行っている。年が明けてからは、新型コロナウイルスの流行による出勤・登校の停止により生じた実験の滞りにより年明けから実験が進まなかったが、それまでの成果を考えれば、概ね順調に研究が進んできたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年5月現在、新型コロナウイルスの流行による出勤・登校の停止が続いており実験再開の見通しは立ってない。一方で、計算機実験は自宅でも実施が可能であり、少なくとも上半期はそれが研究の中心になると考えられる。内容としては、さらに精度の高いニューラルネットワークのハイパーパラメーターの決定等である。また、誘電体材料に金属微粒子を分散した構造や誘電体と金の多層構造を使ったハイパボリック・メタマテリアルの計算も行っておく予定である。新型コロナウイルスの流行が終息後実験ができるような状態になれば、これらの計算を基に、クローキング構造を作製、測定用の光学系を構築して実験を進める。
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