クローキングとは、物体(対象物)を特定の媒質で覆うことによりそれを不可視化する光学技術であり、これまで理論と計算でしか議論されてこなかった光学周波数でのクローキングを実験で実証することを目的とする。そのため、設計と計算を基に、実在物質を使ったクローキング条件を提案し実際にクローキングが起こる構造を実際に作製し、実験でクローキングを観測する。本年度は以下の3つの項目について研究を行った。 1. 銀ナノワイヤを固定した試料による散乱光測定のシミュレーション 入手できる構造の銀ナノワイヤ(直径0.11マイクロメートル、長さ20マイクロメートル)の表面をクローキング媒質である酸化モリブデンでコートした構造について、ミー理論を用いた散乱強度の計算を行った。その結果、厚さ0.045マイクロメートルの酸化モリブデンでコートされた際に波長633ナノメートルのTM偏光に対してクローキングが達成され、光の散乱がほとんど無くなることがわかった。また、これを観測するための光学配置の検討も行った。 2. 銀ナノワイヤを固定した試料による散乱光測定の測定 得られた条件を基に、試料を作製し、クローキング前後での散乱光強度の変化を測定した。その結果、シミュレーションで予測した通り、厚さ0.045マイクロメートルの酸化モリブデンでコートされた際に波長633ナノメートルのTM偏光に対してクローキングが達成さることを確認した。 3. 遺伝的アルゴリズムを用いて、多層膜で構成されるクローキング構造について計算を行った。このクローキング媒質は、広帯域なクローキングが達成できるという特徴がある。その結果、広帯域なクローキングが達成できる構造を見いだすことができた。この構造は、過去に報告されている座標変換光学と有効媒質近似から予想された構造よりも格段に高いクローキング性能を有している。
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