研究課題/領域番号 |
19H02629
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
浅野 卓 京都大学, 工学研究科, 准教授 (30332729)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / 機械学習 / ナノ共振器 / 構造最適化 |
研究実績の概要 |
フォトニック結晶共振器は波長程度の微小領域への強い光閉じ込めを可能にする技術であり、これを用いて全固体素子共振器量子電磁力学系や、共振器光子寿命内での光の動的操作の実現など、従来にない様々な光機能が創出されてきた。しかしフォトニック結晶は高い構造自由度を持つため、従来手法では十分な設計を行うことは困難であり、その潜在能力を十分に活用できていなかった。そこで本研究では、機械学習に基づく構造最適化手法を検討し、これを様々なフォトニック結晶共振器に適用して、その潜在能力を最大限引き出すことを目指している。 令和1年度の研究においては、機械学習モデルの高度化や広く構造パラメータ空間を探索する手法の検討などに取り組み、ヘテロ構造共振器より共振器体積が半分程度であるが、Q値が低く低損失設計の困難なL3型共振器において、従来の500万程度を大幅に上回る3000万程度のQ値を持つ構造を設計することに成功した。 令和2年度の研究においては、令和1年度に開発した機械学習を活用した手法によって設計したL3型共振器を実際に作製し、Q値430万という非常に損失の小さい共振器を実現することに成功した。これは従来のL3型における最大の実験Q値である210万を大きく超える値であり、本研究で開発した機械学習設計手法の有用性を実証することができた。 また、同様の手法をSiO2埋込み型の共振器にも適用して設計を行った上でその構造を作製し、従来の最大の実験Q値である100万を大きく超える180万という高いQ値を実現した。SiO2埋め込み型共振器は、空気クラッド型と比較して光閉じ込めが弱くなるものの、多層配線や機械強度の観点から実用的に非常に重要な構造である。その光閉じ込めの弱さを、機械学習設計によってある程度補償し、従来の半分程度の損失の共振器を実現てきたことは本手法の有用性を示す結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で検討・発展させてきた自動繰り返しによって自ら学習データを生成して拡張する機械学習設計手法を、実用上重要なL3型共振器およびSiO2埋込み型共振器に適用し、そこで設計された構造を実際に作成することで、従来の最高性能を大幅に上回るQ値の共振器を実現できた。また研究実績の欄では述べていないが、Siラマンレーザ用共振器における2つのモードの同時最適化やSiC共振器の構造最適化についても、設計の検討が進みつつある。これらのことから、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで発展させてきた機械学習と学習済みモデルを用いた候補構造の生成、その第一原理計算による評価を繰り返すこと手法を複数要素の同時最適化に拡大しつつ、フォトニック結晶光回路のボトルネックとなっているものの手動設計では解決が難しい様々な課題に適用し、その解決を図る。具体的には、(1)1つの共振器内の複数モードの同時最適化、(2)共振器の放射損失の低減と光導波路への結合の増大の同時達成、(3)非対称構造の最適化、等について詳しい検討を行う。
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