フォトニック結晶共振器は波長程度の微小領域への強い光閉じ込めを可能にする技術であり、これを用いて全固体素子共振器量子電磁力学系や、共振器光子寿命内での光の動的操作の実現など、従来にない様々な光機能が創出されてきた。しかしフォトニック結晶は高い構造自由度を持つため、従来手法では十分な設計を行うことは困難であり、その潜在能力を十分に活用できていなかった。そこで本研究では、機械学習に基づく構造最適化手法を検討し、これを様々なフォトニック結晶共振器に適用して、その潜在能力を最大限引き出すことを目指している。
令和3年度の研究においては、これまでの研究で得られた最適化手法を拡張して、フォトニック結晶共振器の複数の性能指数を同時に最適化することを試みた。共振器中の2つの共鳴モードを用いて実現されたシリコンラマンレーザの発振閾値低減を行うため、その2つのモードのQ値を同時に向上させることのできる共振器構造を機械学習に基づく手法によって探索し、これを実際に作製することにより発振閾値を従来の1/10以下に低減することに成功した。また、光バッファメモリー実現のためにはQ値が高くかつ互いに強く結合した共振器結合系の実現が必要であるが、これらは互いに相反する性能であるため手動による設計は困難であった。そこで機械学習を活用して、この2つを同時に向上させることのできる共振器結合系構造を探索したところ、良好な構造を得ることができた。さらに得られた共振器結合系に電気的な共振波長制御機構を組み込んだ試料を作製したところ、共振器に蓄えられた光を電気制御のタイミングで別の共振器に転送することに成功した。これらは機械学習に基づく構造最適化法が様々なデバイス応用の実現あるいは高性能化を行う上で非常に有用であることを示す成果である。また量子工学応用や光非線形応用が期待されるSiC共振器においても、共振器構造の最適化を行った。
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