シリコン誘電体ミー共振器における多重極子の選択制御と赤外メタサーフェス素子

2020 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 19H02630
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 高原 淳一 大阪大学, 工学研究科, 教授 (90273606)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: メタマテリアル / メタサーフェス / ミー共振 / シリコン / 二酸化バナジウム / 多重極子

研究実績の概要

誘電体メタサーフェス素子の実現において、ミー共振器中に強く閉じ込められた多重極子の散乱制御（振幅、位相、偏光）が重要である。本研究では誘電体ミー共振器の多重極子の制御について理論的解明をすすめ、それを応用した赤外メタサーフェス素子の実現を目指している。昨年度に新しく導入した近赤外光学顕微鏡システムを用いて赤外メタサーフェス作製と実験研究をすすめ、以下の成果を得た。
１）Degenerate Critical Coupling（DCC）法による可視域での誘電体完全吸収体：ミー共振器を誘電体に埋め込んで放射損失を制御することで材料固有の損失とバランスさせるDCC法により、完全吸収波長をすべての可視域で実現できる誘電体メタ原子構造を理論的に提案した。また、シリコンミー共振器による実験によりこれを実証した。
２）四重極子の基礎研究：DCC法を四重極子にも拡張することにより楕円型円筒ミー共振器中の四重極子を用いて完全吸収体を理論的に提案した。また、これを実験により実証した。
３）近赤外域への拡張：近赤外でのみ高いコントラストを示すメタサーフェスを設計・試作し、可視カメラでは同一色を示すが近赤外カメラでは異なるコントラストとなる秘匿画像を実現した。これは偽造防止や情報多重化などに応用できる。
４）二酸化バナジウム（VO2）支援シリコンミー共振器による位相制御と偏向素子：シリコンミー共振器の一部にVO2層を付加することにより、金属・絶縁体相転移によりモード体積を大きく変化させ、ミー共振波長において2Piの位相制御ができることを見出した。また、これを利用した温度スイッチング型偏向素子を提案した。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

誘電体メタサーフェスに興味をもつ国立台湾大学Shi-Wei Chu教授と共同研究を行うことにより、シリコン単結晶の誘電体ミー共振器の光散乱において10万倍におよぶ巨大な非線形性光学効果を見出した。これは誘電体ミー共振器の強い光閉じ込めによる光熱効果による非線形散乱であることを理論と実験との比較により確認した。Chu教授の専門は超解像顕微鏡であり、国際的な異分野連携により予想外の成果を得ることができた。
本研究はNature Communications誌に国際共著論文として出版されたほか、海外のWebメディア（AAASの運営するEurekaAlert!など）でも多数報道された。本研究は国際共同研究により当初は予想しなかった成果が得られたことから、当初の計画以上に進展しているといえる。

今後の研究の推進方策

シリコンミー共振器をDCC法により完全吸収体とすることでシリコンミー共振器における熱光学効果を最適化することにより、昨年度新たに見出した巨大非線形光学効果の効率をさらに向上させる。また、次世代の光エレクトロニクス材料として期待されるグラフェンと誘電体メタサーフェスとの融合をはかる。

研究成果

• [国際共同研究] National Taiwan University(その他の国・地域（台湾）)
  • 国名: その他の国・地域（台湾）
  • 外国機関名: National Taiwan University
• [雑誌論文] Switchable wavefront control using all-dielectric metasurface mediated by VO2 (2021)
  • 著者名/発表者名: Hiroaki Takase and Junichi Takahara
  • 雑誌名: Applied Physics Express (APEX) 巻: 14 ページ: 032007-1-4
  • DOI: 10.35848/1882-0786/abdd13
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Radiative loss control of an embedded silicon perfect absorber in the visible region (2021)
  • 著者名/発表者名: Rongyang Xu and Junichi Takahara
  • 雑誌名: Optics Letters 巻: 46 ページ: 805-808
  • DOI: 10.1364/OL.417438
  • 査読あり
• [雑誌論文] Giant photothermal nonlinearity in a single silicon nanostructure (2020)
  • 著者名/発表者名: Yi-Shiou Duh, Yusuke Nagasaki, Yu-Lung Tang, Pang-Han Wu, Hao-Yu Cheng, Te-Hsin Yen, Hou-Xian Ding, Kentaro Nishida, Ikuto Hotta, Jhen-Hong Yang, Yu-Ping Lo, Kuo-Ping Chen, Katsumasa Fujita, Chih-Wei Chang, Kung-Hsuan Lin, Junichi Takahara & Shi-Wei Chu
  • 雑誌名: Nature Communications 巻: 11 ページ: 4101
  • DOI: 10.1038/s41467-020-1784
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] バルクから表面へ向かうメタマテリアル (2020)
  • 著者名/発表者名: 高原淳一
  • 雑誌名: 光技術コンタクト 巻: 2 ページ: 30-37
• [雑誌論文] 相転移材料を用いたアクティブメタサーフェス (2020)
  • 著者名/発表者名: 高原淳一
  • 雑誌名: 光アライアンス 巻: 1 ページ: 46-50
• [学会発表] 誘電体メタサーフェスの基礎とバイオセンシングへの応用 (2021)
  • 著者名/発表者名: 高原淳一
  • 学会等名: フォトバイオ協議会 第13回 PhotoBIO ワークショップ
  • 招待講演
• [学会発表] 金属ー絶縁体転移を用いたメタサーフェスによる位相の動的制御 (2021)
  • 著者名/発表者名: 高瀬博章, 髙原 淳一
  • 学会等名: 第１７回プラズモニクスシンポジウム
• [学会発表] Si/VO2Mie共振器における熱光学効果による非線形散乱制御に向けて (2021)
  • 著者名/発表者名: 川島一祥, 髙原 淳一
  • 学会等名: 第１７回プラズモニクスシンポジウム
• [学会発表] 誘電体ミー共振器を用いたメタサーフェスとその応用 (2020)
  • 著者名/発表者名: 高原淳一
  • 学会等名: 2020年電子情報通信学会ソサエティ大会
  • 招待講演
• [学会発表] 誘電体メタサーフェスと多重極子フォトニクス (2020)
  • 著者名/発表者名: 高原淳一、劉 天際
  • 学会等名: 電子情報通信学会 2020年総合大会
  • 招待講演
• [学会発表] VO2を用いたアクティブ誘電体メタサーフェスによる吸収率制御 (2020)
  • 著者名/発表者名: 高瀬博章, 高原淳一
  • 学会等名: 第81回応用物理学会秋季学術講演会
• [学会発表] Field enhancement by thin dielectric nanodisks as Mie resonator (2020)
  • 著者名/発表者名: Ronyang Xu, Tianji Liu, Junichi Takahara
  • 学会等名: JSAP-OSA Joint Symposia 2020, The 80st JSAP Autumn Meeting 2020
  • 国際学会
• [学会発表] 単結晶シリコンMie共振器を用いた近赤外画像生成 (2020)
  • 著者名/発表者名: 石丸弘之、高原淳一
  • 学会等名: 日本光学会年次学術講演会 OPJ2020
• [図書] メタマテリアル、メタサーフェスの設計・作製と応用技術（分担執筆） (2020)
  • 著者名/発表者名: 高原淳一
  • 総ページ数: 202
  • 出版者: R&D支援センター
  • ISBN: 978-4-905507-46-8
• [備考] シリコンナノ共振器により“10万倍”の巨大非線形光散乱を実現～シリコンの光・光スイッチへの応用に期待
  • URL: https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20201028_2