誘電体メタサーフェス素子の実現のためには、誘電体ミー共振器中の多重極子の散乱制御が重要である。本研究ではミー共振器の多重極子の理論的解明とその赤外メタサーフェス素子への応用を目指している。今年度は特に電気双極子と磁気双極子が縮退したホイヘンススメタサーフェス(HMS)に着目し、これを利用して様々な機能を発現させることにより、以下の成果を得た。 1)Degenerate Critical Coupling(DCC)法による誘電体完全吸収体による非線形光学定数の増大:DCC法を用いた単結晶シリコン(c-Si)メタサーフェスの完全吸収体を設計し、これを用いて非線形散乱実験を行った。これにより非線形光学散乱のおきるパワーを1桁低減することに成功した。これは光熱効果による加熱が効率的に行われたためと考えられる。さらに、オージェ過程の効果により時間に依存した非線形性の変化を見出すことに成功した。これらの成果は光・光スイッチングや超解像イメージングへの応用が期待できる。 2)赤外域への展開:可視域では見えず近赤外でのみ高コントラストを示す赤外秘匿画像を実現した。また、光吸収の少ない赤外域においてHMSを利用して完全吸収体を実現する系統的方法を理論的に確立した。これによりc-Siメタサーフェスの動作波長を近~中赤外域へ拡張することが可能となった。 3)二酸化バナジウム(VO2)支援ミー共振器による電気・磁気ミラーの切り替え:誘電体メタサーフェスは完全電気ミラー、完全磁気ミラーを実現できるが、一般に狭帯域であり波長域が異なる。c-Siミー共振器にVO2層を付加することにより、金属・絶縁体相転移を利用して同じ波長で電気・磁気ミラーの切り替えが可能な構造を提案し、光通信波長帯の広い波長域で動作する素子を作製し原理を実証した。これは蛍光輻射の増強に応用できる。
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