研究課題/領域番号 |
19H02637
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
増子 拓紀 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 特別研究員 (60649664)
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研究分担者 |
小栗 克弥 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 部長 (10374068)
石澤 淳 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 主任研究員 (30393797)
加藤 景子 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (40455267)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アト秒科学 / 高強度物理 / 超高速物理 / 超高速光学 / 原子分子光学 / 量子光エレクトロニクス / アト秒パルス |
研究実績の概要 |
可視・紫外領域の光電界は、ペタヘルツ(1015 Hz)級の周波数に達し、誘起される電子分極は、光物質相互作用に伴う様々な物理現象を生み出す。可視・紫外領域の光電界は、ペタヘルツ(1015 Hz)級の周波数に達し、誘起される電子分極は、光物質相互作用に伴う様々な物理現象を生み出す。本研究では、アト秒(10-18 秒: as)パルスを用いて、物質内部で生じる超高速の電子分極応答(吸収・反射・屈折など)の物理起源の解明およびアト秒時間制御に挑戦する。 本研究計画の2年目にあたる2020年度において、我々は超広帯域連続スペクトルを持つダブルアト秒パルスを用いた位相干渉計測に成功した。これにより超高時間分解能を持つアト秒位相分光の実現が可能となる。この位相計測法は、物質中で運動する電子の波動性(複素屈折率、複素誘電率、波束、双極子位相、分散など)を知る上で重要な技術と成り得る。本成果は、Optics Express米科学誌[H. Mashiko et al., Opt. Express28, 21025-21034 (2020): Editor’s Pick]に投稿され、招待講演1件、会議発表6件、ALPS2020国際会議にて優秀学生発表賞(横国大:大島氏)に採択される等の多数の成果を得ている。 一方で、我々は固体物質を用いた高感度なアト秒過渡反射実験に成功した。光子数の乏しい極端紫外アト秒パルスの弱点を克服するため、ロックイン増幅を組み合わせた実験系を構築し、ビスマス金属材料のコヒーレントフォノン現象の観測に成功した。この成果は、Optics Express米科学誌[Keiko Kato, Hiroki Mashiko et al., Opt. Express 28, 1595 (2020)]に採択され、会議発表5件の成果を残している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の2年目にあたる2020年度は、前年度に開発したダブルアト秒パルス干渉光学系を用いて、超高速緩和過程を持つアルゴン原子(Ar)の内殻電子に対する過渡屈折分光法を実現した。 過去に代表研究者(申請者)が開発した二重光学ゲート(DOG:double optical gating)法を用いて発生した極端紫外領域の単一アト秒パルス(IAP: isolated attosecond pulse)は、広帯域の連続スペクトル(光子エネルギー帯域 : 25-40 eV)を持ち、かつ極めて高い時間分解能を有する(パルス幅:192 as)。このIAPは、前年度に構築した高安定の空間分割ミラーに入射され、分割されたIAP対はArガスジェット(相互作用長:100 マイクロメートル)上に集光される。同時に、パルス幅6 fsの近赤外フェムト秒パルス(NIR: Near-infrared femtosecond pulse)は検査光として照射される。IAP対により励起される内殻電子(3s→4p)は、8.2 fsの高速な緩和時間を持つ。この緩和時間よりもパルス幅の短いNIRは、IAP対により励起した内殻電子をArイオンの励起状態へと遷移する。この時、IAP対のスペクトル干渉画像を直接的に観測している本実験系においては、IAP対間の相対屈折率をフーリエ変換により抽出すことができる(実数:相対分散、虚数:相対強度)。本計測では、このIAP対間の相対時間差を内殻電子(3s→4p)の緩和時間(8.2 fs)より短い5 fs、また長い10 fsに設定した。結果、異なる相対時間差(5-10 fs)で大きな屈折率変調が観測され、本成果はIAPを用いた新規的なコヒーレント制御法の提唱にも繋がると期待される(招待講演:1件、論文執筆中)。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2019・2020年度に開発した「ダブルアト秒パルスを用いたスペクトル干渉光学系」の技術を応用し、分子や半導体をターゲットに用いて、物質中の電子の複素応答(屈折率や誘電率)を解明する実験を行い、新たな電子物性の解明を試みる。 2020年度はアルゴン原子を対象とした過去屈折分光を実証したが、最終年度にあたる2021年度においては、より電子と原子核間の相互作用が顕著となる窒素分子(N2)を初期ターゲットとする。新規的な技術である過渡屈折分光を通して、これらの材料の過渡的な電子波動性(波束、双極子位相、分散、複素屈折率、複素誘電率)を調査する。位相と振幅の情報を直接的に得ることが可能な技術であるため、次世代のアト秒コヒーレント制御に向けた重要な研究となりえる。さらに、従来の振幅(強度)検出では解明できなかった物質応答の根幹である原子散乱係数を決定することが可能となるため、基礎研究領域においても重要な知見となると期待される。さらに我々は、半導体の代表的な材料でもあるpn(もしくはpin)接合のシリコン(Si)半導体もターゲットに用いる予定である。pn接合シリコン半導体系の電子の複素応答(振幅・位相)を捉えられる知見は、その量子効率や損失等の改善に役立つ可能性がある。
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