磁気1次反転曲線(FORC)法は近年急速に発展しつつある磁気的手法であり、磁性材料特性の平均値を評価する磁気ヒステリシス法では得ることができない保磁力分布及び相互作用分布を同時に評価可能である。本研究では、ポータブル型FORC測定装置を開発し、専用研究施設が保管する中性子照射済み試験片についてFORC測定を系統的に実施することで、照射脆化に対する新たな磁気的非破壊評価法として、FORC法の有用可能性を検証し総括することを目的としている。 目的の達成のため、令和4年度は、ベルギー・材料試験炉BR2で中性子照射された標準試料(純鉄、圧延率が異なるFe-1wt%Cu 熱時効材3種)、IAEA標準材、ロシア型圧力容器鋼モデル合金2種類の計7種類・102個の未照射及び照射試験片のFORC測定に注力した。サンプル部の治具改良により再現性が高い測定データを得る一方で、測定時期の違いにより、FORCの解析パラメータに若干のばらつきが生じることが分かった。大洗施設での測定は時期を3回に分けて実施したが、ノイズレベルなどの測定環境の違いが影響している可能性もある。より精密測定可能な治具及び装置改良が必要と考える。若干のばらつきの中でも中性子照射量に対する系統的なFORCパラメータの材料依存性が観測された。殆どの照射試料でFORCピークの保磁力及び相互作用磁場方向の幅の拡がりが観測された。この結果は、異なる磁気的硬さを持つ領域形成とその領域間の磁気的相互作用の発現を意味しており、FORC測定により、照射誘起ナノスケール欠陥密度の増大効果だけでなくその空間分布特性も捉えることが可能であることが明らかになった。
|