研究課題/領域番号 |
19H02644
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山崎 信哉 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70610301)
|
研究分担者 |
田中 万也 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (60377992)
菱田 真史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70519058)
関根 由莉奈 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (00636912)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | リポソーム / 希土類元素 / ランタノイド / 抽出 |
研究実績の概要 |
高レベル放射性廃液に含まれる希土類元素やマイナーアクチノイド等の放射性核種を分離することは、廃棄物保管あるいは希少元素の有効利用のために重要なプロセスである。本研究の目的は既存の溶媒抽出法に代わる効率的かつ環境負荷の極めて少ない新規抽出法を確立することである。そこで、本研究ではジグリコールアミド系(DGA)配位子をリポソームに封入して分離媒体とし、水溶液から希土類元素を吸着・回収する手法の開発を行っている。有機層の代わりとして、水中で安定に存在するリポソームを配位子の保持場とすることで水相での抽出が可能となる。以上に基づき2019年度は下記の項目について検討した。 ①-1リポソームに添加するDGA配位子の合成:回収効率を上げるために既存のDGA配位子(DODGAA)をベースに炭素鎖を10及び12に変えた分子を合成した。 ①-2DGAリポソームによるREEおよびMAの抽出量評価:①-1で合成したDGA配位子をリポソームに混合し、REEの吸着について検討した。その結果、炭素数が多くなるにつれて吸着量が増加し、炭素数12のDGA配位子の場合、既存の配位子の2倍の吸着量を示す事が分かった。 ②-1DGAリポソームによるREEの抽出機構:広域X線吸収微細構造(EXAFS)によりREEとDGA配位子の結合状態を調べた。この結果、配位子とREEは外圏錯体を形成していることが示唆された。 ②-2DGAリポソームの物理化学的特性:保持率および反応性の高いDGAリポソームを調製するためには、配位子が二重膜の外側に多く分布すると有利と考えられる。このためDGA配位子がリポソーム構造中にどのように分布しているかを小角X線散乱(SAXS)により調べた。この結果、DGA配位子はリポソームの内膜と外膜それぞれに分布している事が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①-1 リポソームに添加するDGA配位子の合成を行った。既存のDGA配位子をベースにアルキル鎖が10と12のDGA配位子(D10DGA、D12DGA)を合成した。合成したDGAを卵由来のレシチンと混合してDGA封入リポソームを調製した。封入するDGA配位子量を変化させてランタノイドを添加して吸着量を求め、DGA配位子の飽和封入量を決定した。この結果、アルキル鎖が8から12になると飽和封入量がおよそ2倍に増加した。アルキル鎖が長いほどリポソーム中での安定性が増加する事が示された。 ①-2 DGAリポソームによるREEの流出量評価を行った。①-1で合成した分子のうち最も封入量の多かったD12DGAを選択し、ランタノイドの吸着に対する各パラメーターの寄与について検討した。全ランタノイドを同時に添加して吸着挙動を確認した結果、固液分配係数Kdは最も小さいランタンに対して最も大きなルテチウムが約100倍程度と大きな違いが出た。また、原子番号が大きくなるにつれてKdの値が増加した。 ②-1 リポソームによるREEの抽出機構についてXAFS法を用いて分析した。D12DGAリポソームにランタノイドを加えて蛍光XAFS法で分析を行った。この結果、フリーのイオンとほぼ同じ結果が得られた。この事から、水溶液中におけるDGAとランタノイドの反応については静電的な吸着が示唆された。 ②-2 D12DGA封入リポソームの構造を調べるためにSAXSにより分析した。DGAがない場合のリポソームと比較した結果、リポソームの内膜と外膜にDGAが封入されている結果となった。 以上のとおり、本年度の研究については予定通りに遂行する事ができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度の結果をもとに、アルキル鎖をさらに長くしたDGA配位子を合成し、その物性について検討を行う。昨今のコロナ禍のため、放射光を利用する外部測定の遅延が予想される。このため、2020年度は新たなDGA配位子の合成とランタノイドの吸着実験およびマイナーアクチノイド(アメリシウム等)の吸着実験を中心に進める。 来年度以降に放射光を利用した実験が集中してできるように、2021年度に実験室で行う予定の試験を行うことを検討している。
|