研究課題/領域番号 |
19H02652
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
岩元 洋介 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究主幹 (10391327)
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研究分担者 |
吉田 誠 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (70379303)
薮内 敦 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (90551367)
明午 伸一郎 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主席 (80354728)
松田 洋樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 任期付研究員 (70782960)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | はじき出し断面積 / 照射損傷 / 高エネルギー陽子 / 極低温 / PHITS / 欠陥生成効率 |
研究実績の概要 |
粒子・重イオン輸送計算コードPHITSの陽子照射による金属の原子はじき出しモデルを検証するため、2020年度以降に米国フェルミ国立加速器研究所(FNAL)において実施する、はじき出し断面積と関連するエネルギー120 GeVの陽子ビームを用いた極低温の金属の照射欠陥に伴う電気抵抗増加測定の準備をJ-PARCにおいて開始した。 準備をすすめる上で、これまで、岩元らが大阪大学核物理研究センターにおける測定に使用したチェンバー、冷凍機等の機器の大部分を再利用できる見通しを得た。そのため、当初予定したチェンバーの新規製作や冷凍機の購入を行わないこととした。また、J-PARC 30 GeVメインリングのビームラインに常設されている冷凍機付きチェンバーと新規に購入したビームダクトを用いて、FNAL用のサンプルの設計やビームプロファイル手法の検討を行った。サンプルは直径250μmのアルミニウム、鉄、銅及びタングステン線とし、冷凍機に接続した、ビーム穴を持つアルミニウムホルダに接着した。ビーム試験の結果、全てのサンプルにおいて照射欠陥に伴う電気抵抗増加を同時に測定できた。また、タングステンの電気抵抗増加とビーム上流モニタの信号の相関からビームプロファイルが可能なことがわかり、FNALにおけるサンプル製作やビーム測定手法等を確立した。さらに、最新の欠陥生成効率モデル(athermal recombination correction: arc) による120 GeV陽子に対するはじき出し断面積の計算値は、従来モデル(Norgett, Robinson, Torrens model: NRT)による計算値に比べて約3倍小さいことがわかった。 本年度の進捗を加速器における放射線損傷に関する国際研究協力会合RaDIATEにおいて発表を行い、本研究内容を広く周知した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、2020年度以降に計画しているFNALにおける120 GeV陽子を用いた極低温金属の照射試験を実施する。極低温陽子照射装置については、概要で述べた通り、これまでに使用したチェンバー等を再利用できることがわかったため、当初予定のチェンバーの新規製作や冷凍機購入を行わず、既存の装置の改良といった作業の効率化を図ることができた。また、J-PARCのメインリングを活用して、当初の予定通りサンプルの製作手法とビームプロファイル手法を確立し、FNALで使用するサンプルアセンブリの設計及び製作を実施できた。さらに、当初予定していなかった、PHITSへの最新のはじき出し損傷モデルの組み込みと120 GeV陽子に対するはじき出し断面積の計算を実施し、成果を国際会議において発表できた。一方で、2020年3月に京大複合研で実施予定だった、照射前のサンプル中の欠陥を減らすために行うサンプルのアニール作業は新型コロナウィルス拡大の影響により実施できなかったが、アニール作業期間は数日のため、2020年度の早い時期に対応可能である。 以上を考慮して2019年度の進捗状況はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
FNALの協力研究者等との議論の結果、以下の予定で研究を推進する。2020年4~6月の期間において、J-PARCにおいて、極低温陽子照射装置の組み立てと冷却試験の実施、データ収集系の確立を行うとともに、輸出管理に関する手続きを遂行する。また、FNALの協力研究者とともに、ビームマシンタイム申請、実験の安全審査に関する書類等の作成、PHITSを用いた照射装置周辺の放射線線量評価等を実施する。2020年7~8月の期間に、J-PARCからFNALへ装置を輸出する。2020年10月~2021年1月の期間の2週間程度FNALに滞在し、テストビーム施設(FTBF)のM03ビームラインにおいて、陽子照射試験を実施する。2022年3月に日本原子力学会春の年会において成果を発表する。 研究遂行の問題点として、日本及び米国における新型コロナウィルス拡大の影響により、研究所の閉鎖や入出国管理の強化が長期化に及ぶと考えられる。FNALの協力研究者と情報を共有し、2020年度の実験が不可能と判断された場合、2021年度に実験を延期し、科研費の繰越申請を速やかに実施する。
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