研究課題/領域番号 |
19H02655
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
藤井 光 秋田大学, 国際資源学研究科, 教授 (80332526)
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研究分担者 |
内田 洋平 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究チーム長 (90356577)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地中熱利用 / 地下水 / シミュレーション / 温暖化対策 |
研究実績の概要 |
令和2年度は秋田大学内に設置した実験サイトにおいて,揚水井の近傍で発生する地下水流れによる地中熱交換井の効率改善効果を実証する種々の検討を行った。主な実施項目を以下に記す。 1.長期冷暖房試験では,融雪システムに設置された2本の既存揚水井に流量計と水位計を新規に設置し,年間を通じた揚水量と水位を長期観測した。地下水位はおおむね一定の水位に安定していたが,12月から3月の降雪時における揚水期間では10m~15m程度の顕著な水位低下が揚水井においてみられた。揚水井から約80m離れた地中熱交換井では地下水位の低下は4m~5mであった。地中熱利用ヒートポンプシステムにおける冷暖房COPは水位が低下する期間において0.5程度の改善が見られたが,これは地中熱交換器の有効長さが減少することと相反するが,揚水が喚起する地下水流れによる熱移流によるものであり,この現象による高い効率改善効果が確認された。 2. 地中熱利用ヒートポンプシステムの挙動予測モデリングにおいては,上述の長期冷暖房試験の結果を用いて,システム周辺地域の地下水流動・熱輸送モデルをFEFLOW Ver.7.0を用いて構築した。同モデルは計測された地下水位および熱交換井出入り口温度の実測値を用いて検定を行い,計算値と実測値に良好な一致を得た。さらに同モデルを用いて,一日あたり稼働時間,熱交換井本数・揚水井と熱交換井の距離などを変更させて,地中熱交換量を予測することにより本システムにおける最適な稼働条件・熱交換井配置を検討し,さらにシステム挙動の長期持続性についても確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
秋田市内でのフィールド試験において重要となる,揚水井への計測装置の設置では自治体の認可と施工に技術的改善を要したが,年度開始時ににすべて終了し,年間を通じた揚水状況とヒートポンプ運転データを採取できた。ヒートポンプシステム運転データに基づく数値シミュレーションでは,高い精度でのヒストリーマッチングが完了した。 一方で,地質条件が異なる地域でのフィールド試験は山形市での実施を計画していたが,新型コロナウイルス感染拡大による県外移動規制により現場視察が遅れており開始が令和3年度になる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
令和3~4年度は本研究1~2年目に秋田市における実験サイトで実証した,揚水井の近傍で人工的に喚起される地下水流れによる地中熱交換井の効率改善効果を地質条件の異なる山形市の実験サイトにおいて実証する種々の検討を行う。また,本効果を活用する地中熱利用システムの普及を目指して,揚水を考慮した地中熱利用ポテンシャルマッピングを継続する。以下に研究項目を記す。 1. 山形盆地平野における熱応答試験(TRT)と数値モデリングでは,揚水による地中熱交換井の効率改善効果を測定するために,既設の試験サイトにおいて,様々な条件下でTRTを実施する。本サイトには揚水井と複数の地中熱交換井が設置されており,揚水量を変化させてTRTを実施することで,揚水量,井戸間距離と熱交換効率の相関が解明される。 2. 数値モデルの構築と感度計算では,山形フィールドでの地質情報に基づき,揚水井を含む1辺2㎞程度の数値モデルをFEFLOWを用いて構築し,妥当性を計算値とフィールド試験結果との比較により検定する。検定後は揚水量,一日あたり稼働時間,熱交換井本数・揚水井と熱交換井の距離などを変更させて,地中熱交換量を予測することにより本システムにおける最適な稼働条件・熱交換井配置を検討し,さらにシステム挙動の長期持続性を確認する。 3. 国内複数地域における広域地下水流動系モデリングとポテンシャルマッピングでは,本システムの設置適地選定のために,秋田平野において地下水流動解析ソフトFEFLOWで3次元広域地下水流動系・熱輸送モデルの構築を継続する。また,本年度は新規に山形盆地についてもモデル構築を開始する。そして,数値モデルの計算結果より,各地域における地下水流速・水位・温度のコンターマップを作成し,これらをGISを用いて統合することにより,両地域における揚水データを考慮したGSHPポテンシャルマップを構築する。
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