研究実績の概要 |
当研究課題では、水分解光電極系において酸素発生効率を高めるべくBiVO4薄膜をRFスパッタ法で製膜し、これに硫黄の混入を試みることでバンドギャップを変化させ、少数キャリアの拡散長を伸ばすことで反応効率を高めることを目指している。前年度までにスパッタBiVO4薄膜の製膜プロセスを確立し、光電流値が1.5 mA/cm2程度(1.23 V vs. RHE)の薄膜を成長させることに成功している。本年度は詳細な成膜条件を検討した結果、Vの取り込み量を酸素分圧により上昇させ、V2O5が析出する条件で成膜することにより高品質なBiVO4膜が成膜できることを明らかにした。これは、V2O5のフラックス生成がBiVO4の結晶成長を促した結果もたらされたと結論づけた。続いて、硫黄により酸素を置換しバンドギャップを制御したBiV(O,S)4膜の成長を試みた。当初スパッタターゲットの仕込み量により硫黄の混入を促そうとしたが、真空成膜条件下では基板加熱によりBi2S3の離脱が起こるため、予想した通りに膜組成を制御するのが困難であった。そこで、プリカーサBiVO4膜をスパッタ法により成膜し、これを硫黄蒸気で硫化することを試みた。その結果、この手法では大幅に硫黄の混入が促され、また硫黄の仕込み量により混入量が変化することが明らかになった。BiVO4への硫黄の混入が増えるとバンドギャップが小さくなる反面、酸素と硫黄のイオン半径の違いにより欠陥が導入される。また、基板温度が上昇しすぎると異相であるBi2S3の析出が確認された。このため、BiV(O,S)4膜はBiVO4膜と比較して成膜条件にかなり制限があり、適度な混入量と成長温度に抑えることが必要になることが明らかになった。
|