研究課題/領域番号 |
19H02663
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研究機関 | 長岡工業高等専門学校 |
研究代表者 |
荒木 秀明 長岡工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (40342480)
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研究分担者 |
赤木 洋二 都城工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (10321530)
寺田 教男 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (20322323)
田中 久仁彦 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (30334692)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 太陽電池 / 硫化物 / 薄膜 / カルコゲン化合物 / 銅錫ゲルマニウム硫化物 / 結晶成長 / Na添加効果 / インジウムフリー |
研究実績の概要 |
本研究では,Cu2(Sn,Ge)S3のベースとなるCu2SnS3(CTS)をモデルとして,Na添加による薄膜の結晶成長についてラマン分光による評価を行った。 SiO2/Mo基板上にSn/Cu積層膜を作製し,Na添加のためにNaFを真空蒸着で堆積したものを前駆体薄膜とした。この前駆体薄膜を石英容器に硫黄とともに入れ,窒素雰囲気下で所定の硫化温度で加熱することで硫化し,CTS薄膜を作製した。得られた薄膜は,X線回折分析,走査型電子顕微鏡,ラマン分光分析,エネルギー分散型X線分析により評価を行い,結晶構造と光起電力特性の硫化温度依存性について調べた。また,得られたCTS薄膜上に化学浴堆積法でCdS,窓層としてZnO:Alを積層し,櫛形のAl上部電極を成膜することでSiO2/Mo/CTS/CdS/ ZnO:Al/Al構造の太陽電池セルを作製し,起電力特性を評価した。 得られたCTS薄膜のラマンスペクトルから,硫化温度440℃~560℃の硫化において, monoclinic構造によるピークとcubic構造に帰属されるピークとが重なり合っているブロードなピークが観察された。これらをmonoclinic構造とcubic構造にピーク分離し,それらの強度比の硫化温度依存性をみると,硫化温度の増加とともにcubic構造に帰属されるピーク強度は減少し,monoclinic構造が主となり,570℃以上ではmonoclinic構造単相になることを明らかにした。 これらのCTS薄膜を用いて作製したCTS薄膜太陽電池の光電変換効率は,硫化温度の増加とともに特性が向上する傾向が見られ,monoclinic構造の単相が得られた570℃において最も良好な特性が得られた。そのため,CTS薄膜太陽電池は,monoclinic構造の単相化により良好な光電変換特性が得られると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
導入されたラマン分光装置を活用し,硫化法によるCTS薄膜の結晶構造の硫化温度依存性を明らかにし,570℃以上で硫化することで,単斜晶構造の単相が得られ,太陽電池特性が向上できることを示唆する結果が得られている。 特に単斜晶構造単相が得られる硫化温度570℃で作製したCTS薄膜を用いた太陽電池セルにおいて,最も良好な光起電力特性が得られ,開放電圧0.227V,短絡電流密度35.0mA/cm2,曲線因子0.369,変換効率2.93%を得た。太陽電池に適したCTS薄膜を作製するプロセスを明らかにし,Cu2SnS3薄膜太陽電池の高効率化のための新たな指針が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
加熱硫化中の試料のIn-situラマン測定を行える測定系を構築し,Cu2SnS3をモデルに金属前駆体薄膜の硫化プロセスや硫化物前駆体薄膜のアニールプロセスにおける薄膜の相変化や結晶成長をその場観察することで,Cu2SnS3の結晶成長プロセスの解明を試みる。さらに,Cu2SnS3での取り組みをもとに,Cu2GeS3薄膜への適用も試み,Cu2SnS3,Cu2GeS3薄膜の作製プロセスの最適化に取り組むことで,Cu2SnS3,Cu2GeS3薄膜太陽電池の高効率化を目指す。
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