本年度は、酸素還元酵素であるチトクロムc酸化酵素(CcO)の電極表面への固定と各種振動分光法による界面構造計測について継続して研究を進めた。CcOは分子サイズが大きいため、表面増強赤外吸収(SEIRA)分光法による評価が可能かどうか懸念があったが、SEIRA活性Au膜上に形成したCOOH及び-OH末端アルカンチオール自己組織化膜(SAM)上へのCcO固定化過程におけるアミドI・アミドIIバンドの増大を確認する事ができた。アミドIとアミドIIバンドの比からαヘリックスの配向が評価できるが、SAM末端官能基の比率がCOOHリッチ(COOH-SAM)でもOHリッチ(OH-SAM)でも、アミドIバンドが大きく成長し、CcOはαヘリックスを表面法線方向と平行に配向していることがわかった。CcOは膜タンパク質であるため、周辺に脂質二重膜(BLM)を形成した後、生体内での酸素還元反応(ORR)を駆動するための電子源であるチトクロムc(Cyt c)を吸着させる過程を追跡したところ、COOH-SAM上のCcOに対してはCyt c吸着に伴うアミドI・IIバンドの増大が不可逆に観測された一方、OH-SAM上のCcOではアミドI・IIバンドの微小な増大と洗浄による消失が観測された。以上の結果からCyt c結合サイトが、COOH-SAM上に固定したCcOでは溶液側に、OH-SAM上に固定したCcOでは電極側に配向していることが推定され、SAM末端の電荷密度によりCcOの配向が制御できることを見出した。 CcO固定後の各段階でCcOのORR活性を評価したところ、CcO周辺にBLMを形成後にはいずれのSAMでもORR電流が増大したが、Cyt c吸着後にはCOOH-SAM電極でのみORR活性がさらに向上した。BLM形成とCyt cの結合サイトへの吸着がいずれもORRには有利であることがわかった。
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