研究課題/領域番号 |
19H02665
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
近藤 徹 東京工業大学, 生命理工学院, 講師 (30452204)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 1分子分光 / 1分子吸収 / 顕微分光 / 電子移動 / エネルギー移動 / 生体光反応 |
研究実績の概要 |
2年度目となる当該年度では1分子吸収測定に向けて吸収顕微鏡の開発を進めた。fsパルスレーザー(SpectraPhysics社、Synergy)を非線形光学結晶ファイバ(NKT Photonics社、FemtoWHITE)に集光して発生させたスーパーコンティニュウム光をビームスプリッターで二つに分けて、一方をサンプル照射用に、もう一方を参照光として用いた。サンプル照射後の光と参照光はバランス光検出器で計測した。バランス光検出器は2つの光強度の差分を信号として出力する光検出器であり、微弱吸収の検出にも応用できる。蛍光色素ビーズを用いてテスト実験を行ったところ、1粒子の吸収信号を得ることに成功した。一方で、顕微鏡周辺の温度変化、光源の光強度の揺らぎ、光学系の振動など、様々な要因で信号が時間変動してしまい、高いS/Nでの測定が難しかった。そこで、顕微鏡や光源を箱で囲って温度変化を押さえ、安定な測定を可能にした。光源の光強度揺らぎはバランス光検出器を用いることで大分打ち消せていたが、それでも微弱信号測定を行うには揺らぎが大き過ぎることが分かった。また、光学系の振動は取り除くのは難しかった。以上のように、吸収顕微鏡を完成させてデモ実験を行うことで問題点を洗い出すことができた。これらの結果を踏まえ、現在はEOMやAOMを用いた光源の光強度安定化を進めている。さらに、空気バネが組み込まれた光学定盤に光学系を再構築することで、安定性を向上させている。これらの装置改良が完了し次第、蛍光色素ビーズを用いたテスト実験を再度行うとともに、研究計画を次の段階に進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年度目は吸収顕微鏡の開発およびテスト実験を行う計画であった。初年度に組み上げた蛍光顕微鏡を拡張する形で吸収測定系を組み込み、吸収顕微鏡を作製することができた。これを用い色素ビーズの吸収信号を測定することにも成功した。一方で、1分子レベルの微弱信号を測定するために解決すべき問題も洗い出すことができた。更なる装置改良を行うことでこれらの問題を克服し、当初の計画していたように干渉光学系を組み込み、次の段階へ進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
吸収顕微装置の開発を継続して行う。これまでの研究から問題点も明らかになってきたので、まずはそれらを解決する。まずは光源の光強度揺らぎについてEOMやAOMを用いた光強度安定化システムを導入し対処する予定である。また、空気バネ式の光学定盤に系を構築することで安定性を向上させる。これに空間光位相変調器(SLM)と高感度CMOSカメラを組み込んで、1分子吸収検出に耐える測定感度を達成する。さらに、2パルス系へ拡張してpump-probe測定を実現する。また、CCD分光器を導入し、蛍光・吸収のスペクトル情報も併せて取得できるよう改良する。テスト実験では蛍光色素ビーズを用いて系の最適化を進める。その後、自己会合型の色素ナノチューブ分子を計測し、分子内のエネルギー移動過程を解析する。それらが達成できたら、最終目標である光合成反応中心タンパク質の過渡吸収測定に進む。光合成光電変換過程に関わる電子移動反応を1分子レベルで解析し、タンパク質の構造ダイナミクスの影響を定量評価する。
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