研究課題/領域番号 |
19H02666
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
梶本 真司 東北大学, 薬学研究科, 講師 (80463769)
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研究分担者 |
中林 孝和 東北大学, 薬学研究科, 教授 (30311195)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超解像 / ラマンイメージング / 細胞内温度 / 細胞の中の水 / 水素結合 |
研究実績の概要 |
初年度となる2019年度は,蛍光観測を目的として構築した高速構造化照明顕微鏡にcwレーザー等を導入して性能評価を行い,さらに光学系を変更することによってラマン顕微鏡への改良を開始した.また,多共焦点ラマン顕微鏡を用いて細胞内の水を観測することにより,細胞内の温度分布をラベルフリーで可視化できる可能性を示した.構造化照明顕微鏡の性能評価については,細胞内に導入した蛍光性ナノ粒子からの蛍光を観測対象とすることで,1 msの時間分解能で超解像画像を連続取得することに成功した.この結果から,観測をラマン散乱としても,ある程度高強度のレーザー光を励起光とすることで,数10 s程度の時間分解能での超解像ラマンイメージングが可能であると試算した.また,多共焦点ラマン顕微鏡を用いた結果から,細胞のラマンスペクトルのうち,主に水分子に起因するO-H伸縮振動バンドの高波数側と低波数側のバンド強度比を用いることで,細胞内の温度をラベルフリーで可視化できることを示した.実際に,ミトコンドリアの内膜間のプロトン濃度勾配を解消することで熱の産生を誘起することが知られている脱共役剤FCCPを培養細胞に作用させ,多共焦点ラマン顕微鏡を用いて観測することで,細胞内の温度上昇をラマンイメージから可視化することに成功した.さらに,細胞内だけでなく細胞周囲にも水分子が大量に存在することから,細胞周囲の培地中の水のラマンスペクトルも同時に観測することで,細胞内だけでなく,その周囲の温度分布についても同時に可視化し,細胞からの熱の伝播について実験的に観察できることを示した.これらの結果から,構造化照明ラマン顕微鏡を用いる際の観測波長について決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,構造化照明ラマン顕微鏡を構築することで細胞の超解像ラマンイメージングを可能にし,さらにその顕微鏡を用いて細胞内の水分子を直接観測することで,ラベルフリーでの超解像細胞内温度イメージングを行うことを目的としている.蛍光を観測対象とした構造化照明顕微鏡の励起光源,光学系等を変更することによって,構造化照明ラマン顕微鏡の構築を始めただけではなく,蛍光強度とラマン散乱強度との比較から細胞の観察が十分に可能であることを確認した.さらに,多共焦点ラマン顕微鏡を用いた実験から超解像ラマンイメージング の際に注目すべきラマンバンド,観測波長を決定することができた.これらのことから,進捗状況は概ね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度においては,2019年度の結果を受けて,さらに構造化照明ラマン顕微鏡の構築を進める.特に,光学フィルターを用いて注目するラマンバンドを分けることによって,主に生体分子に起因するC-H伸縮振動バンド,主に水分子に起因するO-H伸縮振動バンド,あるいはその高波数側,低波数側を区別して選択的に測定できるようにする.さらに,観測ポートを切り替えることによってラマンイメージだけでなく,ラマンスペクトルも観測可能となるように分光器も組み込む.種々のポリマービーズなどを用いてラマンスペクトルおよびラマンイメージを取得し,ラマン顕微鏡としての評価を行う.それらの結果から露光時間やレーザー強度,光学フィルターのバンド幅などの細胞観測の際の最適条件を決定する.また,細胞の温度測定については,多共焦点ラマン顕微鏡を用いてさらに詳細に調べ,分化や分裂といった細胞の生理現象に伴う細胞内温度の変化を観測し,ラベルフリーでの観測手法を確立する.これらの結果を組み合わせることによって超解像ラマン顕微鏡の構築が可能になると考えている.
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